[連載][築地日記] vol.9 『入院中(当時)につき、機材紹介』|思い付きが書籍になるまでの義理と人情の物語|著:杉山圭(築地考 著者)
築地日記
ーあれよあれよと、思い付きが書籍になるまでの義理と人情の物語。
忘れぬうちにここに記すー
不覚にも入院している隙に撮影機材のご紹介をこの辺で。
写真展にお越しいただいた皆様にはご説明出来た日もありますが、
機材はまだこんなにも高額になる前のLEICA M5と
初期に近い(古い)Summilux 35mmを使用しています。
単焦点なので写真に写っているそのままの近さまで寄って(近くで)
撮影しているので、その辺りも『築地考』を見る際はお楽しみ下さい。
随分度胸がいりました…。
今回はそんなお話です。
カメラ一台にレンズは35mm一本だけしか持っていなかったので、とにかくそれで撮りまくっていた。
等価交換的に手に入れたLeica M5 とSummilux 35mm f1.4 (今でもそれがメインだし、手放せないくらいの値上がり)と、近所の写真屋さん(後でプロラボと知る)に薦められるがままのKodak TRI-X 400(時々PORTRA 400)が自分の黄金の組み合わせとなる。いざ!
写真を撮る方はすぐにお分かりになるとおり、市場を撮るのに35の単焦点一本で挑んでいるということは、近くで撮りたい時は歩いて被写体まで寄るのです。相手が誰であれ、寄るしか方法がないのです。そう、相手がマグロを競りにかける卸と仲卸の緊迫の最中にも寄る。
とにかく寄る。
そう、仲卸が競り落としたマグロを捌く時も。仕事を終え、包丁を研ぐ昼過ぎの真剣な眼差しにも。
そう、街を守る「す組」の祭りの神輿の先導にも、100年ぶりに神輿が隅田川の上を行く時も。 35mm一本なので自分の足で物理的に寄るしかないのだった。
しかし。このレンズ、接写ができないのです。70cmまでしか寄れないのです。コーヒーカップにボケ味をつけて…。これ以上は、だ・め・よ。と言わんばかりに。
つづく
最新話は著者Instagram(https://www.instagram.com/uniteddesign_diary/)にて先行公開中
会期:9月1日(金)~11月30日(木)
会場:東京都中央区築地4-9-7 中富ビル2階 喫茶マコ隣
▼『築地考』公式サイト
https://tsukiji-ko.jp/
▼動画『Movie Collection』&テキスト『Voice』
アートディレクター
杉山圭
株式会社ユナイテッドデザイン 代表取締役
同社 文化人類デザイン研究室 室長
1967 年静岡県生まれ。インテリアデザイン会社、建築設計事務所を経て、1998 年に株式会社ユナイテッドデザイン設立、主に建築・地域・都市計画、環境計画におけるグランドデザイン、コンセプトの構築及びデザイン・基本設計、アートディレクション、デザインコンサルティング業務。様々なプロジェクトにおいて、文脈と類推(自然環境、風習、風俗、地理、歴史、現象、人物、生活、社会、テクノロジーの推移等からなる)をフィールドワークから考察してコンセプト立案及び横断的なデザイン制作。また、“文化人類学”を学問としてではなく“デザイン”として捉える新しいデザインカテゴリー『文化人類デザイン®︎』を提唱する。2016 年にユナイテッドデザイン内に研究室を置きアノニマスデザインの概念の再構築とその実現を目指し、ルポルタージュとアートの接点を模索し活動。
【AIが入り損ねた“街”築地市場が、美しく経年変化を遂げた要因に迫る、築地市場を知ってる人も知らない人にも見て欲しい、分野の垣根を超えた一冊!】
これは、築地市場をただノスタルジックに物語る写真集ではありません。本書出版の2023年は、関東大震災によって日本橋魚河岸が消失して100年。豊洲に移転して5年の期に、改めて独自の視点で築地市場を見つめ直しています。
1935年、合理的近代モダン建築から83年の年月をかけて風情ある懐かしさへの経年変化を成し遂げた“街”築地市場の進化の速度と要素に着目した、実に7年に及ぶ取材と編集を経た644点の写真と考察からなる博物館のような書籍です。築地市場の美しい風景が、飲食店街から地下道まで今では見ることの叶わぬ、当時も一般では立ち入る事のできなかった施設の細部まで記録されています。ここに確かに存在した「人間らしい街」の姿と考察は、分野を問わず未来のどこかできっと必要になるはずです。
本書は、都市計画デザイン・コンセプトの作成を専門とする著者が7年に及ぶ取材と編集を経て、築地市場にみた「魚河岸の江戸っ子の義理人情」が染み混んでいった83年に渡る背景や要素を考察したものです。著者自らが独自の視点とフィールドワークによって捉えた懐かしくも新しい風景の数々。
後半に京都大学名誉教授 工学博士 椹木哲夫氏との「人間らしさ・生活世界」について分野を跨いだ興味深い共同考察が繰り広げられています。
まるで市場全体が呼吸をしているかのような有機的な“街”から学ぶ、人間らしい労働環境とは、経年変化による美しさとは何か。また、それらをいかにして遂げることが出来たのか。著者自ら場外市場の一角に住み込みながら取材した「情緒」を育む街の在り方・作り方を探っています。フィルムならではの美しい写真と、多角的な視点での考察からなる懐かしい市場風情の成り立ちを未来社会に届けたい著者の思いが伝わります。著者が着目した以下のポイントを通じて本書をお読み頂けると、築地市場という建築群がいかに自然環境や人間そのものと向き合って作られたものか、スクラップアンドビルドだけではない進化の方法を探っていきます。
・海風が通り抜ける建築的な特徴
・鉄道由来からなる扇型の建築形状
・作業順に中心部へ流れる動線計画
・都心から徒歩圏内で、海、歴史深い庭園と接する稀有な立地
・神社と祭り、伝統的な地域コミュニティとの密接なつながり
・出直し、やり直しのきく労働環境
・公平性を保つための定期的な店舗の配置換え
・老若男女がそれぞれの役割をもって働く場所
・銀行、郵便局、診療所、食堂、キオスク、神社…街を構成する要素
・有機的に日々進化する市場内における危機回避の手法
・大規模再開発・技術革新へ掛け算したい「人間らしさ」を育む街の計画
・損得よりも義理人情で動く人たち
都市計画サーベイの手法を取り入れた、都市計画、建築、芸術、生活文化はもとより、さまざまな分野を横断する写真による魚河岸文化の記録と考察です。
【詳細はこちら】
Amazon築地考 築地市場 写真による魚河岸文化の記録と考察
【公式サイトはこちら】
https://tsukiji-ko.jp/