OFFICIAL BOOK制作陣が勝手に選ぶ 「せんだいデザインリーグ」歴代日本一の中の日本一@越後谷出
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もちろん、作品を一同に並べて審査することはできないし、それぞれの作品が計画された時代背景や選ばれた状況も違うため、一律に比較することは難しい。しかし、そこは、Luchtaのお気楽企画! みなさんの(勝手な)要望に何とか応えるため、乱暴ながら、長年にわたってSDLを見てきた7人に、それぞれが審査過程を見てきた中で「この作品こそが歴代の中で真の日本一」と思う作品を選んでもらった。選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。
果たしてどの作品がどんな理由で選ばれているか、期待して読んでほしい。そして、各年の審査の様子や作品のさらに詳しい情報は、オフィシャルブックでご確認を!!
未だ見たことのない何かを描き出す卒業設計
SDL2008日本二『私、私の家、教会、または牢獄』斧澤 未知子(大阪大学)
まだ世の中に出回ってはいない、何か新しいことを他人に伝えるのは、難しい行為だ。言葉で直接的に定義しようとすると思い通りにならず、試みているうちに自分の思っていたところからどんどん離れていってしまう。ユニークなものやオリジナルなものは、使い古された他者の言葉を借りては指し示すことができない。用いる言語の文脈を理解し、その上で自分の言葉、自分なりのやり方を編み出していく必要がある。私たちはそうやって、思い描いている何かの周辺をぐるぐると巡りながら、絵を描いたり、文章を紡いだり、さまざまなやり方で自分の中にある何かを伝えようとする。
卒業設計は大半の場合、実作を伴わない。「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦」の会場に並ぶのは模型とパネル、そしてポートフォリオ。私は写真が専門で、建築を学んだことがない。図面を見ても、専門的な建築的操作については今一つイメージがわきにくい。作品を見る時はつい、作家がどんな構想を思い描き、それをどのように表したのか、という伝達の手段のほうに目が向いてしまう。その意味で、2008年の日本二、斧澤未知子さんの『私、私の家、教会、または牢獄』(*1)に出会った時は、歴代の日本一以上に、強く興味を惹かれた。
周囲の優美な白い模型の群れの中にあって異なる雰囲気を持った、コンクリートの塊のような模型。図面に日記のような文章が細かな文字がびっしりと綴られたパネル。制御された表現なのだが、作者の内に堰き止められていた「生な」何かがドロッとあふれて固形化した、一部分を切り出して提示されたようにも見えてくる。得体のしれない何かがそこにあるという怖さを備えると同時に、他の作品が意識的か無意識的かにかかわらず則っている、ある種の文法から逸脱するかしないかの境界を探るような作品で、もしかすると従来の卒業設計の文法や枠組み自体を拡張してくれるのではないか、という不思議な期待感があった。
あの作品の登場から10年以上が経った。卒業設計という世界は、どれほど拡がっただろう。卒業設計日本一決定戦の撮影のことを考える時、私はいつも、未だ出会ったことのない何かと出会うことを夢見ている。
*1 『私、私の家、教会、または牢獄』:「私性」の問題に取り組んだ作品。「私」を表すための自邸であり、作者の個人信仰の場としての「教会」であり、観念としての「牢獄」であるという。従来の常識的な構成を逸脱し、修道院を思わせる大空間の周囲に小さな部屋群が貼り付いた住宅であった。審査員の評価が割れ、最終段階まで接戦の末、『神楽岡保育園』橋本尚樹(京都大学)に日本一を譲った。
パネル:斧澤 未知子
撮影:中川 敦玲
文:越後谷 出
越後谷 出(SDL2006よりオフィシャルブックの撮影、仙台建築都市学生会議のSDL運営風景の記録撮影を担当)
全国で建築を学ぶ学生の卒業設計作品を一堂に集め、公開審査によって日本一を決める「せんだいデザインリーグ日本一決定戦」。その模様を余すことなく伝える公式記録集がここに刊行!
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