OFFICIAL BOOK制作陣が勝手に選ぶ 「せんだいデザインリーグ」歴代日本一の中の日本一 @伊藤トオル
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もちろん、作品を一同に並べて審査することはできないし、それぞれの作品が計画された時代背景や選ばれた状況も違うため、一律に比較することは難しい。しかし、そこは、Luchtaのお気楽企画! みなさんの(勝手な)要望に何とか応えるため、乱暴ながら、長年にわたってSDLを見てきた7人に、それぞれが審査過程を見てきた中で「この作品こそが歴代の中で真の日本一」と思う作品を選んでもらった。選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。
果たしてどの作品がどんな理由で選ばれているか、期待して読んでほしい。そして、各年の審査の様子や作品のさらに詳しい情報は、オフィシャルブックでご確認を!!
甚大な被害と一緒にもたらされた糧
SDL2012日本一『神々の遊舞』今泉 絵里花(東北大学)
カメラマンとして私がSDLオフィシャルブックに関わり始めたのは東日本大震災の翌年、2012年からになる。これまで8度撮影する中で「歴代日本一の中の日本一」に選ぶのは2012年の日本一、今泉絵里花さん『神々の遊舞』だ。
『神々の遊舞』は、震災復興のための現地調査を経験する中で生まれた作品で、宮城県石巻市雄勝町に600年続く国の無形重要文化財、雄勝法印神楽を舞う舞台として、海と山を結ぶ橋を設計した。この場所は、平時には地域住民の集う場となる。
地(此岸)と海(彼岸)を真っ直ぐつなぐ橋(ハシ)が印象的だった。私自身、被災の経験(津波と父の死)をしているので、当時撮影をしながらだが、意識するしないに拘わらず震災をテーマにした作品が気になるのは仕方のないことであった。審査員の1人は「震災が1つのコンテンツになっている」と全体の印象をいささか批判的にコメントしていたが、今泉さんの作品には、その枠を超える魅力を感じた。そして、それから8年が経ち、今回の企画のためにオフィシャルブックを見直したが、今泉さんの作品はその時に感じた魅力が薄れるどころか、より一層リアルなものとして感じられたのである。
折口信夫の「マレビト考」になぞらえれば、災害は甚大な被害を人間に与えるが、同時にまた違ったものももたらしてくれると考える。近代化の副作用によって失われた物事、目に見えないものに対する畏怖。震災後、多くの人がそれに気づき目を向け始めた。当時、表彰式で伊東豊雄審査員長が「この提案を地元の住民が見たら、みんな、ぜひ作りたいと思うに違いない」と講評していた。私も日本一になった今泉さんの作品が実現するといいなと願った。
しかし、今、現在どうなんだろうか。人と海を隔てる巨大な防潮堤、検証のないままの原発の再稼働など、この国は大きな資本の力に覆い尽くされている。今泉さんの作品を見て、改めて考えさせられた。
撮影・文:伊藤トオル
伊藤 トオル(SDL2012よりオフィシャルブックの撮影を担当)
全国で建築を学ぶ学生の卒業設計作品を一堂に集め、公開審査によって日本一を決める「せんだいデザインリーグ日本一決定戦」。その模様を余すことなく伝える公式記録集がここに刊行!
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