OFFICIAL BOOK制作陣が勝手に選ぶ 「せんだいデザインリーグ」歴代日本一の中の日本一@鶴田真秀子
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もちろん、作品を一同に並べて審査することはできないし、それぞれの作品が計画された時代背景や選ばれた状況も違うため、一律に比較することは難しい。しかし、そこは、Luchtaのお気楽企画! みなさんの(勝手な)要望に何とか応えるため、乱暴ながら、長年にわたってSDLを見てきた7人に、それぞれが審査過程を見てきた中で「この作品こそが歴代の中で真の日本一」と思う作品を選んでもらった。選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。
果たしてどの作品がどんな理由で選ばれているか、期待して読んでほしい。そして、各年の審査の様子や作品のさらに詳しい情報は、オフィシャルブックでご確認を!!
建築と思想、建築と権力。
永遠の課題に真っ向から取り組んだ意欲作
SDL2017日本一『剥キ出シノ生 軟禁都市』何 競飛(東京大学)
「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦」(以下、SDL)の歴史(SDL2006以降だが)を振り返ると、審査過程で毎年、数々のドラマや伝説が生まれ、建築の果たす役割を問う多彩な議論が展開してきた。その中で異色の日本一として印象に残っているのが、SDL2017の日本一『剥キ出シノ生(*1) 軟禁都市』何競飛である。
この作品は、一見、個々の権利が尊重され自由に満ちた世界の裏側で、人知れず大きな権力が社会や建築に作用している、という状況を設定している。世界の国家主義的な政治情勢への皮肉をこめて、そこに潜む恐怖や、権力と建築との関係に着目。本を探しに出かけた学生が知らないうちに選別され、軟禁されるという仮想の都市の物語に基づき、図書館、駅、ショッピングモールを設計した。
建築は、いつの世も権力や社会からの影響を受けざるを得ない。「権力と建築」という問題は、古くは権力者の権威を示す建築や、フランスの哲学者ミシェル・フーコー(Michel Foucault、1926-84年)の提言した「近代の新しい権力(管理システム)と建築の関係性」などに遡る、建築にとって永遠のテーマである。中華人民共和国(以下、中国)からの留学生である何さんは、仮想の物語を介して、永遠のテーマに取り組むと同時に、インターネットに代表される「新しい権力」の恐怖を想起させるきわめて現代的な建築の問題に向き合っていた。
楽観的で耳触りの良い言葉で語られる卒業設計の多い昨今、現代日本で自由な思想と権利を謳歌していると信じて暮らす私たちに対する警鐘ともとらえられ、ドキッとさせられた。建築として実現することをめざしたという模型やプレゼンテーションに彼の問題提起が十分に示されていたとは言い難いが、描き込まれたドローイングは秀逸で、見る者を引き込んだ。
実は、SDL2017審査当日、セミファイナルで選出された10組のファイナリストに連絡をした際、すでに帰途に着いていた何さんは、新幹線の車中であった。慌てて仙台に戻ってきて、プレゼンテーションの順番を最後に変更して、何とか間に合ったという曰く付きだ。間に合わなければ、この日本一は幻となっていた。
たまたま先日、この企画を進めている最中に、「SDL2017の写真を借りたい」とのことで、何さんから2年ぶりにメールが届いた。東京大学の大学院(隈研吾研究室)を経て、現在、アメリカ合衆国のイェール大学大学院で建築を学んでいて、中国メディアから取材の依頼があったそうだ。
日本への留学、SDLでの日本一を経て、アメリカ合衆国へ、と何さんは着実に活動の幅を広げている。SDLの舞台が、その皮切りになっているような気がして、頼もしくも、うれしい便りであった。
編註:*1 剥キ出シノ生:主権権力の外に位置する者を意味する。『ホモ・サケル 主権権力と剥き出しの生』(Giorgio Agamben原著、高桑和巳 訳、以文社刊、2003年)より作者が引用した。
図:何 競飛
写真:伊藤 トオル
文:鶴田 真秀子(SDL2006よりオフィシャルブックの編集を担当)
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