• 歴代日本一の中の日本一
  • 選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。

OFFICIAL BOOK制作陣が勝手に選ぶ 「せんだいデザインリーグ」歴代日本一の中の日本一@大坂智

OFFICIAL BOOK制作陣が勝手に選ぶ 「せんだいデザインリーグ」歴代日本一の中の日本一
現在、さまざまな卒業設計関連イベントが林立しているが、その先駆けとなった老舗の卒業設計イベントの1つが、2019年春の大会で17回めを迎えた「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦」(以下、SDL)である。今回、SDLが長年蓄積してきたものを見直すことで、改めてSDLの果たしてきた役割や、歴史的価値を検証し、今後の卒業設計の行方を占おうという企画を立ててみた。その第1弾が「歴代日本一の中の日本一」である。SDLでは、これまでに17の日本一が誕生してきたということになるが、その中で真の一番と言える作品、つまり「日本一オブ日本一」は一体どれなのか? 誰もが気になるところではないだろうか(気になるよね? そうでもない?)。
もちろん、作品を一同に並べて審査することはできないし、それぞれの作品が計画された時代背景や選ばれた状況も違うため、一律に比較することは難しい。しかし、そこは、Luchtaのお気楽企画! みなさんの(勝手な)要望に何とか応えるため、乱暴ながら、長年にわたってSDLを見てきた7人に、それぞれが審査過程を見てきた中で「この作品こそが歴代の中で真の日本一」と思う作品を選んでもらった。選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。
果たしてどの作品がどんな理由で選ばれているか、期待して読んでほしい。そして、各年の審査の様子や作品のさらに詳しい情報は、オフィシャルブックでご確認を!!

心を揺さぶられた日本一

SDL2012日本一『神々の遊舞』今泉 絵里花(東北大学)

東北地方を襲った3.11東日本大震災という未曾有の大災害が起きた翌年に、被災地である東北の学生が日本一に輝いたことは実に印象的で、それが、この作品を選んだ主な理由だ。純粋に建築としての評価というより、被災地をどうにかしようという真摯な気持ちが伝わってきて、トキめいた。SDLを見てきた11年間の中で、一番、感情を動かされた日本一である。

『神々の遊舞』は、牡鹿半島にある宮城県石巻市雄勝町に600年続く国の無形重要文化財、雄勝法印神楽を題材にしている。震災の2カ月後から復興のための現地調査の経験を重ねる中で、古来から伝わる祭と神楽を手がかりに、バラバラになった地域の共同体を復活させよう、という提案に至ったと言う。津波に襲われた非可住エリアに「流れ橋」の構造の橋が導く舞台、浸水ラインより上側の地区に主な神楽関連施設を設計している。

提出物の中では特に、ポートフォリオなどにあった、やさしいタッチのイラストが「絵本のようでいいな」と思った。また、作者本人が震災を体験したことが、提案内容やプレゼンテーションに臨場感を与えていたのではないだろうか。惨状を前に、学生なりに前向きに復興を考えて、頑張っているところに好感を抱いた。おそらく、この提案の内容や作者の取組みは、まだ復旧の見通しの立たない土地で、まわりの人々をほっとさせたのではないだろうか。

この作品は、地域の伝統的な儀式や文化を守る姿勢という問題に焦点が置かれていて、建物の提案というより、建築に至る前提やプロセスの提案だとは思う。しかし、壮大なスケールの物語であることは伝わってきた。
心の底から「おめでとう」と言えた日本一だ。

  • 足元の沢

図:今泉 絵里花
写真・文:大坂 智

大坂 智(SDL2009よりオフィシャルブックのデザインを担当)

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