• 歴代日本一の中の日本一
  • 選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。

OFFICIAL BOOK制作陣が勝手に選ぶ 「せんだいデザインリーグ」歴代日本一の中の日本一 @清水有

現在、さまざまな卒業設計関連イベントが林立しているが、その先駆けとなった老舗の卒業設計イベントの1つが、2019年春の大会で17回めを迎えた「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦」(以下、SDL)である。今回、SDLが長年蓄積してきたものを見直すことで、改めてSDLの果たしてきた役割や、歴史的価値を検証し、今後の卒業設計の行方を占おうという企画を立ててみた。その第1弾が「歴代日本一の中の日本一」である。SDLでは、これまでに17の日本一が誕生してきたということになるが、その中で真の一番と言える作品、つまり「日本一オブ日本一」は一体どれなのか? 誰もが気になるところではないだろうか(気になるよね? そうでもない?)。
もちろん、作品を一同に並べて審査することはできないし、それぞれの作品が計画された時代背景や選ばれた状況も違うため、一律に比較することは難しい。しかし、そこは、Luchtaのお気楽企画! みなさんの(勝手な)要望に何とか応えるため、乱暴ながら、長年にわたってSDLを見てきた7人に、それぞれが審査過程を見てきた中で「この作品こそが歴代の中で真の日本一」と思う作品を選んでもらった。選者はオフィシャルブック関係者、会場であるせんだいメディアテーク関係者など、審査に直接は関わらなかった、いわば外野陣である。建築的な優劣に限らず、それぞれの評価軸によって、特に印象に残った作品が選ばれている。
果たしてどの作品がどんな理由で選ばれているか、期待して読んでほしい。そして、各年の審査の様子や作品のさらに詳しい情報は、オフィシャルブックでご確認を!!

■ 新しい潮流をつくった卒業設計

SDL2005日本一『gernika “GUERNIKA” museum』大室 佑介(多摩美術大学)

「独断で構わないから、歴代の日本一の中の日本一だと思う卒業設計を1つ選んでほしい」と編集者から依頼を受けた時、真っ先に僕の頭に浮かんだのは、2005年の大室佑介さん(多摩美術大学)の『gernika “GUERNIKA” museum』であった。

『gernika “GUERNIKA” museum』は、1937年に人類史上初の無差別都市爆撃の被害地となったスペインの小都市ゲルニカに、のちにピカソが描いた大作『ゲルニカ』を誘致するための美術館、博物資料館、図書館、野外劇場、記念碑、公園を設計し、当時の爆撃の生き証人たちが少なくなりつつある中で薄れゆく記憶を、客観的な資料と建築でつなぎとめようとする計画である。土地の歴史の調査をもとに、外部記憶装置であるモニュメントとして建築をまとめ上げ、その後の卒業設計の人気ジャンルの潮流をつくった。

まず印象的だったのは、模型やコラージュ写真が抜群にスタイリッシュだったこと。実際に、ゲルニカの地に赴き、ていねいな調査データをもとに「建築」として結晶化させた秀作だ。加えて大室さんの設計の説明は、平明な言葉の中に、歴史や詩や絵画、写真のコラージュなどの引用があり、アンビルトであるはずの空想の美術館の中をまるで自分が実際に回遊しているかのように思わせる説得力に満ちていた。指導教官である飯島洋一氏譲りの文明批評があり、また今やりたいことをとことん追求する「卒業設計」という若さの醍醐味に痺れた年だったと記憶している。

しかし実際には、この年の最終審査は大室さんを推す石山修武審査員長と『都市の原風景』須藤直子(工学院大学)を推す青木淳審査員たちの間で議論は続き膠着した。タイムリミットが近づき、とうとう最後に審査員長が「あなたには、こういうこと(慰霊碑的な記憶を建築化すること)を一生やり続ける気持ちはありますか」と問いかけ、大室さんは「はい、続けます」と応じて「日本一」となった。

その後、大室さんは大学院を修了し、大手のアトリエ系建築事務所を経由して独立。建築家としてさまざまな現場に携わり、アートプロジェクトなどにも関わる一方で、個人のライフワークとして『私立大室美術館』のプロジェクトを続けている。これは、岳父の所有する空き工場を借り受けて内部を片付け、棚や壁を設置して大室美術館とし、展覧会を運営するというもので、分棟の新築や展示壁面の増築などを重ねながら1年に1棟ずつ美術館の分館は増えている。振り返ってみると、卒業設計を「一生やり続ける」といったあの時の信託をこのプロジェクトに結実させ続けているのだ。

「経験を積み、機略の才を重ねながらも、如何に初心の情熱を失わぬ愚鈍さを保ち得るか」。表彰式での石山修武審査員長の言葉どおり、大室さんは今でもあの時の「初心」を持ち続け建築と対峙している。僕が『gernika “GUERNIKA” museum』を「日本一の中の日本一」として選んだ理由はここにある。

  • エレベータで最深部に降りていくと現れる「ゲルニカの間」。
  • 鉄製の空中歩道を歩く人々。

写真・図提供:大室 佑介
文:清水 有

清水 有(この人だけは、外野陣とは言えないSDL要人。初回の2003年よりSDLを仙台建築都市学生会議と共催し、展示会場や審査会場となっているせんだいメディアテークの学芸員。キュレータとしてSDLを担当)

【開催予告】せんだいデザインリーグ2020

せんだいデザインリーグ2020
卒業設計日本一決定戦

■公開審査
2019年3月8日(日)
15:00-20:00

■会場
せんだいメディアテーク 1F オープンスクエア
(仙台市青葉区春日町2-1) ⇒アクセス

■作品展示
2020年3月8日〜15日
10:00-19:00(最終日は15:00まで)

■審査員長
重松象平

■審査員(50音)
金田充弘
野老朝雄
冨永美保
永山祐子

■司会
櫻井一弥

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