【大会レポート】せんだいデザインリーグ2019 卒業設計日本一決定戦 卒業設計の愛のゆくえ
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せんだいメディアテークを会場として卒業設計の日本一を決める「せんだいデザインリーグ2019 卒業設計日本一決定戦」は、初回の2003年から17回を数える。2019年3月3日、1階オープンスクエアでファイナル公開審査が開催された。
今回の作品数は事前登録=491、出展審査=331であった。昨年の出展審査=332とほぼ同数。作品数の変遷は2012年(出展審査=450)、2015年(出展審査=350)と減少傾向にあり、少子高齢化の波は大会運営にじわじわと影響を与えている。
2019/3/3午前中のセミファイナル
どこになにを、作るのか
2014年の日本一『でか山』(岡田翔太郎)は、石川県七尾市の青柏祭(1983年に重要無形文化財指定)で曳き回される山車(でか山)の実測調査をして建築化したものである。岡田翔太郎の故郷である七尾の街を移動して地域全体を活性化させる山車建築に審査員の関心が集まった。
「故郷に錦を飾る」とまでは言わないが、地元愛に満ちた作品は他者の共感を得やすい傾向にある。
2019年は2人の三重県人が「海女」と「輪中」で競い合った。
2014 年の日本一『でか山』模型
『海女島―荒布栽培から始まるこれからの海女文化』坂井 健太郎[島根大学]と『輪中建築―輪中地帯の排水機場コンバーションによる水との暮らしの提案』中家 優[愛知工業大学]である。
「海女」は三重県鳥羽市、「輪中」は三重県桑名市を敷地に選定した。両者の生まれ育った故郷の問題点を掲げて、解決を提案するプレゼンテーションは、見ている者を感動させた。
愛に萌える
ファイナルの公開審査で平田晃久審査員長は語った。
異論もあるかもしれませんが卒業設計を製作する熱意というのは、言いかえるならば「愛」のことだと思います。僕は、極論すれば建築は愛の形を作ることだと思っています。
ただし、ファイナリストそれぞれで、その愛がどういう形で結晶しているか、というのはかなり違っていたし、愛の種類も違っていたと思っています。大きく分けると、個的愛、地域に対する愛、人類に対する愛の3つに分類できると思った。個的愛は単に自己に向かう愛かというと、そうではない。個に対する愛を極めることによって、誰もが共有できるものになる、ということがポイントだと思います。
地域に対する愛ということで見るとかなり素直な提案が多くて、『海女島―荒布栽培から始まるこれからの海女文化』坂井 健太郎は一番素直に地域愛が表れていたと思います。『輪中建築―輪中地帯の排水機場コンバーションによる水との暮らしの提案』中家 優は、もともとあるものに対してやや愛が過剰というか。既存の排水機場に対してプログラムを変えてしまっているというのが本当の愛なのか、と僕の中で疑問に思ったんですね。
『都市的故郷―公と私の狭間に住まう』長谷川 峻[京都大学]や『「土地あまり時代」におけるブラウンフィールドのRenovation計画』富樫 遼太+田淵 ひとみ+秋山 幸穂[早稲田大学]、『渋谷受肉計画―商業廃棄物を用いた無用地の再資源化』十文字 萌[明治大学]も大きく分ければ、人類愛なのかなと思いました。
ただし、ある種のフィルタを通して、人類というものを自然の1つとして見ているというか……。たとえば、サファリで動物たちを見ているようにちょっと離れた視点に立って人類を見ている。そのことが何につながるのかというと、「自分が生きている」「人の営みを愛でる」というような別の価値を生み出す可能性があると思っています。その意味で『「土地あまり時代」におけるブラウンフィールドのRenovation計画』富樫 遼太+田淵 ひとみ+秋山 幸穂には若干シニカルな感じがあります。『都市的故郷―公と私の狭間に住まう』長谷川 峻や『渋谷受肉計画―商業廃棄物を用いた無用地の再資源化』十文字 萌に関しては、いい形で人類愛が昇華される可能性を秘めているなとポジティブに見ています。
誰が、どのように使うのか?
中川審査員が発言。
『都市的故郷―公と私の狭間に住まう』『「土地あまり時代」におけるブラウンフィールドのRenovation計画』『渋谷受肉計画―商業廃棄物を用いた無用地の再資源化』の3組から積極的な意見を聞きたくて質問です。
いずれも、「誰のために作るのか」ということについて、ちょっと実感がもてなくて、卒業設計はあくまでフィクションですが、人間の捉え方が少し匿名的すぎるんじゃないか、という疑いがあります。この建築が仮にできた時に、どういういいことが起こって、どういう未来を期待するのか、について積極的に演説いただきたいなと思います。
長谷川 峻:居住者は単身者です。
個人的には、これまで自分が横浜で生まれて東京で生活して、大学では京都に引っ越すという経緯から、自分には「故郷ってものがないな」と感じていました。でもそれは、自分だけの価値観ではないということに気づきました。
都市に住む人、とくに東京に住む人の多くは、自身を根無し草のような存在だと感じているだろうと思っています。地方移住ではなく、その人たちを何か救うようなものを都市において実現したいなと思いました。
なんとなく一緒に存在している、共有している……。そういう建築が、何かに包まれているようで、少し落ち着けるような居心地のいい空間になるのではないかなと考えています。
富樫 遼太:この花岡(秋田県大館市花岡町)という土地を長年持っている民間企業がこの土地を開いて、地域住民というよりは近くに住む子供たちや家族などがこの場所を訪れて、この場所を知って、その場所性を知る。
場所性は、この敷地に建築によって記録されます。この場所にあるものだけでなくて建物や風景を通してこの場所を漂白していってもいいと思っています。
十文字 萌:誰のためと訊かれたら、渋谷に来る人、渋谷にいる人のために作っていて、それが最終的に渋谷の街のためになるようにと思っています。
たとえば今ここ、仙台に来ていても、仙台の駅前の風景は東京にもあるようなものばかりで、全然、仙台に来たっていう感じがしないんですが、渋谷は東京の中心にある割に、「渋谷に来たって感じ」が自分の中にあって、そこから始まっています。
渋谷も昔は人の生活があり、いろいろな要素がぐちゃぐちゃに混ざっていたところでした。大企業の建物で埋め尽くされるような街ではなく、そこに昔からあるものや場所を転用して、渋谷が更新されたらいいなっていう風に思ってます。
写真・文:山野 文
せんだいデザインリーグ2019 卒業設計日本一決定戦
会場=
せんだいメディアテーク1階オープンスクエア(公開審査)
会期=
2019年3月3日[日]~10日[日]
3/3
セミファイナル審査
ファイナル審査(公開審査)
3/3-10
作品展示(せんだいメディアテーク5階・6階)
主催=仙台建築都市学生会議/せんだいメディアテーク
ファイナル審査員=
平田 晃久[審査員長・建築家]
トム・ヘネガン[建築家]
家成 俊勝[建築家]
武井 誠[建築家]
栃澤 麻利[建築家]
中川 エリカ[建築家]
西澤 徹夫[建築家]
司会:櫻井 一弥[建築家]
応募条件=
建築系学校に在籍する学生の卒業設計が対象。ウェブ上で応募登録をした登録者は会場への作品搬入手続きを経て出展となる。
参加校=69校
出展数=331作品
審査方法=
3/3午前のセミファイナルは、前日の予選で選ばれた上位100作品から、審査員による投票とディスカッションを経て、プレゼンテーションを行なうファイナリスト(10作品)を決定。午後、ファイナルの公開審査を経て各賞を決定。
賞金=日本一 10万円/日本二 5万円/日本三 3万円
受賞者
日本一 | 『大地の萌芽更新』-「土地あまり時代」におけるブラウンフィールドのRenovation計画- 富樫 遼太 田淵 ひとみ 秋山 幸穂 [早稲田大学] |
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日本二 | 『渋谷受肉計画』-商業廃棄物を用いた無用地の再資源化- 十文字 萌 [明治大学] |
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日本三 | 『輪中建築』 -輪中地帯の排水機場コンバーションによる水との暮らしの提案- 中家 優 [愛知工業大学] |
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特別賞 | 『海女島』―荒布栽培から始まるこれからの海女文化― 坂井 健太郎 [島根大学] |
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特別賞 | 『都市的故郷』―公と私の狭間に住まう― 長谷川 峻 [京都大学] |
10選
022 | 『浴場民主主義の世界』―古代ローマ時代の公衆浴場を空間モデルとした公共建築の設計― 福岡 優 [京都工芸繊維大学] |
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058 | 『State of the Village Report』 工藤 浩平 [東京都市大学] |
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071 | 『都市的故郷』―公と私の狭間に住まう― 長谷川 峻 [京都大学] |
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118 | 『大地の萌芽更新』-「土地あまり時代」におけるブラウンフィールドのRenovation計画- 富樫 遼太 田淵 ひとみ 秋山 幸穂 [早稲田大学] |
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155 | 『海女島』―荒布栽培から始まるこれからの海女文化― 坂井 健太郎 [島根大学] |
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158 | 『輪中建築』 -輪中地帯の排水機場コンバーションによる水との暮らしの提案- 中家 優 [愛知工業大学] |
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170 | 『たとえば基準線にかさぶたを』 鈴木 遼太 [明治大学] |
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173 | 『渋谷受肉計画』-商業廃棄物を用いた無用地の再資源化- 十文字 萌 [明治大学] |
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272 | 『3匹のムネモシュネ』 川永 翼 [日本大学] |
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401 | 『あわいの島』-島のくらしに浮かぶmémto-mori- 畠山 亜美 [新潟大学] |