REPORT01 手塚貴晴 講演会 「建築家の仕事」(動画)     

概要

■『建築家の仕事』手塚貴晴氏 特別講演会

■日時:2017年2月10日(金)18:00~19:00
■会場:ヒルトン東京4F
■定員:100名
■参加費:無料
■主催:株式会社 建築資料研究社/日建学院
■公式サイト:https://www.ksknet.co.jp

「建築家の仕事」

1.いい生活を知らなければ、いい建築はつくれない。

私の建築は、家族からアイディアをもらうことが多いです。確かに雑誌を読んだり建築を見て回るのも大事ですけど、それでは他の人と同じものを追いかけているだけです。それに対して家族というものは、自分だけが置かれているリアルな環境です。

私の事務所では、毎年自転車で富士山へ行ったり、BBQ、サッカーなどさまざまなイベントを開催しています。仕事さえしっかりやれば、平日にデートにいってもいいです。なぜそうしているのかというと、朝から晩まで働いて土日も無いと、自分の生活がわからなくなってしまうからです。いい生活をしていない人が、どうしていい建築を提供できるのでしょうか。いい建築家になるために一番大事なことは、「いい生活を理解すること」だと思います。そういうわけで、事務所内で過去10年間に7組の夫婦がうまれているのも自慢の一つです。

そんな手塚氏が自身の子育ての経験を活かして設計した建築、
それが、東京都立川市の「ふじようちえん」だ。

2.常識を打ち破る「走り回れる屋根」

今時幼稚園は内廊下が多いですが、この建築は外廊下にしています。まるくしたら園児も園長先生も一日中回ってくれるんじゃないかと思って、まるくしました。もともとあった木を残すために木の根を避けて基礎を打っています。

園長先生から、屋根には手すりをつけたくないという要望がありましたが、さすがにそれは無理だとお話ししました。実際に役所に申請を出しても断られました。ところが、面白いもので、園長先生は立川市長よりも偉いんですね。市長は4年ごとに選挙があるけれど、園長先生は選挙がありません。なので60年も2代にわたって幼稚園をやっていると、市役所の職員が全員この幼稚園の卒園生なんていうことになったりするんですね。結局、園長先生が市役所に掛け合って、木の周りだけは手すりをつけなくてよいことになりました。また、屋根の上にいる子どもがよく見えるように、一番低いところの天井高は2.1mになっています。

出来た当初は、保育園の設計指針を守っていないだのと教育関係者から文句も言われましたが、転機は2011年に訪れました。OECDが選ぶ世界の優れた教育施設で、ふじようちえんが世界一になっちゃったんですね。それで文部科学大臣賞を頂いたり、妻が幼稚園の設計指針を決める委員に選ばれたりして、法律を書ける側になったんです。こうなると設計の幅も広がります。

3.設計者の予想を超える使われ方

ふじようちえんでは、けやきの落ち葉を集めて落ち葉プールに集め、そこでカブトムシの幼虫を育てて、やがて堆肥を畑にまいて、出来た作物を子供たちが食べる、というシナリオができていました。建築のエレメントがすべて教育のツールになっていたんです。設計当時はそこまで想定していませんでした。建築家が、「こう使え」というのではなく、子供たちが自分たちで使い方を発想できるような建築を目指したいと思っています。

4.自閉症が発症しない、自然に近い環境

バリ島のジャングルで撮影した民族ダンスの動画です。ビーーーっていう虫の音が入っていますが、撮影したときは全く気付きませんでした。科学者の大橋力さんが説明してくれたのですが、人間の体って、聴きたくない音をキャンセルできるんですね。それも周波数でキャンセルするんじゃなくて、情報としてキャンセルできる。ただ、その力は外部環境に影響を受けるので、ジャングルから出た瞬間に、ノイズキャンセル機能がはたらかなくなって、雑音が聞こえるようになるんだそうです。

子供って、静かな部屋にそっと連れてくと泣くんですよ。でもファミレスの騒がしいところでは寝てるんですよ。バックグラウンドノイズってすごい大事だということです。人間って雑音があってはじめて体の機能が正常にはたらくようにできているんですね。

また、このふじようちえんは、外も中もツーツーです。11月~3月しか窓は閉めません。

これに対して、寒いんじゃないかとか言う人がいます。でも、暑い夏に暑いビーチに行ったり、冬寒いのにゲレンデに行きますよね。つまり人間が快適と感じる条件というのは、自分が楽しいと思うときなど、定量化できないものもあるのです。定量化できないから計画学に入っていないだけなのです。

そんなわけか、自閉症の子が転園してきても、ここでは発症しません。また、“檻”がなく自分で距離を自由に取れるので、いじめもありません。

5.安全にしすぎない。

屋根の上には一見様々な「障害物」があるのですが、子供たちはそれを邪魔なものだと捉えずに遊んでいます。遊びの中で自然と「コントロールされた危険」を認識し、学習するのです。最近は安全性が声高に叫ばれていますが、安全すぎると、子供のうちに学ぶべきものを学ばずに大人になってしまいます。それはとても可哀そうなことだと思います。人間って本来はもっと強いものであるはずなのです。

6.「懐かしい未来」を体現する建築

20世紀は人間がコンピューターに合わせないといけなかったのですが、いまでは、気づかないうちにコンピューターが人間をサポートしています。うちの子供は教えなくてもiPhoneできれいな水彩画を描きます。

この建物は柱がロングスパンですが、きちんとFEMや時刻歴解析をかけています。また、細い柱のうえに屋根材をピン接合で載せて、初期モーメントがかからない状態で剛接合するという施工方法をとりました。曲線はコンピューターではなく手で描いています。光環境や音環境もシミュレーションをかけており、非常にハイテクですが、一見してもわからないと思います。人が技術に合わせるのではなく、本来の人間らしく過ごせる建築をつくるために技術を活用することを心掛けています。それが、我々が目指したノスタルジックフューチャーです。

このように、先端の技術を濫用するのではなく、建築を通して実現したいことを真摯に考えて取り組んだプロジェクトをもう1つ紹介してくれた。

7.大事なのは、建物そのものよりも400年先へのメッセージ

東日本大震災の津波により枯れてしまったお寺の並木がありました。この木は、400年前、1611年の大津波のあとに植えられたもので、まちのプライドでもあったのです。そこで、仮設の幼稚園をつくろうという話になったときに、この木を使うことにしました。上棟式ではまちのみんなが集まってくれて、自分の家よりまず先にこれをつくりたいという気概を感じました。約400年周期で襲ってきている津波を、石碑ではなく建築を通して後世に伝えていきたいと考えました。というのも、ここのお寺の近くの人が多く助かったのは、高いお寺に逃げると助かると伝えられていて知っていたからなんです。建築は単にオブジェではなく語り部でもあるということです。また木造というのもポイントで、いい木造ってものすごく長くもちます。1000年を超えている建物は木造以外にはないのです。

8.建築は50年100年は平気で使われるから、流行りを追いかけても意味がない。

私が乗っているこの車は、車にしてはすごくて、50年間生産されています。建築は50年100年平気で使われます。だから流行を追うのはなく、これから先50年100年どうやったら使ってもらえるかを考えることが大事なんです。それを考えたときに、以前ある方から言われた言葉を思い出します。

9.「手塚さんに頼んでも、100%満足な建築は出来ない。けれど、200%気に入る建築は出来る。」

建築は一品生産です。そして、かならず間違えます。でも、気に入ってもらえれば大事にしてもらえます。これからみなさんも建築の設計に携わっていくと思いますが、お気に入りの建築をつくることを目指していってもらいたいです。そうすれば、すごくいい建築家としての人生を送れると思います。以上です、どうもありがとうございました。

建築技術の未来については、様々に描かれ語られている。しかし、よい建築家として持つべき「人生を楽しむ多くの引き出し」や「建築を使う人間を大事にする姿勢」は、昔も今も、そしてきっとこれからも変わることはないのだろう。

「建築家の仕事」映像編はこちら

PROFILE

講師:手塚貴晴(建築家)

1964年 東京生まれ 武蔵工業大学卒業、ペンシルバニア大学大学院修了、東京都市大学教授 日本建築学会賞(作品賞)(ふじようちえん)をはじめとした様々な賞を受賞されている日本を代表する建築家。

ライター紹介
朱涵越(しゅ・かんこう)。1992年上海生まれ。東京理科大学建築学科卒。現在、東大院で環境学をベースに都市デザインを学んでいます。トウキョウ建築コレクション2017の論文展代表を務めたご縁でライターとして活動開始。花森安治の「文章は言葉の建築。」を胸に、読み手の日常にちょこっと色を足すような記事を書いていきます。

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