『イケてる「庭師」のたたずまい ~伝統とトレンドのつなぎ方~』[国際ガーデンEXPOセミナーレポート]

国際ガーデンEXPO

『イケてる「庭師」のたたずまい ~伝統とトレンドのつなぎ方~』

講師:辰己耕造・辰己二朗(GREEN SPACE) +澤田忍(季刊『庭』編集長)

<国際ガーデンEXPOセミナーレポート>

 2020年10月14日〜16日にかけて、「国際ガーデンEXPO」が幕張メッセで開催された。国際ガーデンEXPOとは、世界中から園芸・造園に関するあらゆる商材が一堂に出展される国際商談展で、今年で14回目の開催となる。会場内では、同時に「第10回ツールジャパン」、「第10回農業Week」が開催され、830社が集まる大規模な商談展となっていた。ガーデンに関するさまざまな業種が集まり、各ブースで名刺交換・商談が行われ、活気ある空間であった。
 そのような商談展の一角で、セミナー『イケてる「庭師」のたたずまい ~伝統とトレンドのつなぎ方~』が行われた。その会場をレポートする。

 対談形式で行われたこのセミナーは、GREEN SPACEの代表であり、庭プロデューサーの兄・辰己耕造氏、庭師の弟・辰己二朗氏と季刊『庭』編集長の澤田忍氏、それぞれの紹介から始まった。
澤田氏は、季刊『庭』の歩みをたどりながら、庭師に向けた専門誌から、近年の庭の需要の変化から現代社会に求められる庭を取り上げるようになった経緯を語った。この対談では、澤田氏は聞き役として、辰己兄弟の活動を紐解いていく。

●危機感からタブーに挑戦


会場内風景。

大阪の植木屋の3代目として生まれた辰己兄弟。大阪の八尾市でGREEN SPACEとして4人の仲間とともに活動している。

「僕らの働き出した時期は、庭師が住宅の庭だけで食べていくことは夢物語とされ、業界に活気がなかった」と語る二朗氏。それが常識となっていた状況に危機感を感じ、そのタブーに挑戦することを決意、再スタートをきったという。仕事ゼロの状態から始まり、12、13年で今に至る。現在は主に個人邸、ホテル、保育園、カフェやアパレル店舗など多様な庭を手掛ける。また、庭づくりだけでなく、植物や庭に関するワークショップはもちろん、庭にとらわれず自分たちがおもしろいと思える情報をさまざまな媒体で発信し続けている。

また、15年程前に、「ニワプラス」を立ち上げた(現在活動休止)。これも、大阪では同業者とのつながりが希薄だという危機感から、関西を中心とする若手の庭や緑に関わる人たちのために情報や意見交換を行える場所をつくろうと考えたことがきっかけだった。

話題は今回のテーマである『庭師のたたずまい』へ。辰己兄弟にたたずまいの源を聞く。業界への危機感から、アパレル店舗などの仕事をするようになるまでに飛躍がある、と澤田氏。その飛躍の要因は何によるのだろうか。


三重野龍によるGREEN SPACEのイメージイラスト。
中に緑空間(=GREEN SPACE)の文字が見える。

●発信すること

 季刊「庭」での作品の掲載や自身のホームページなどで情報発信を続けながら、庭づくりをしていた。一方、巷ではアパレル店舗に緑を取り入れることがトレンドとなり始め、その中で自分たちが発信していた情報に興味を持ってくれたクライアントが依頼してきた、と耕造氏。20代の頃に自分たちの感性に共感してほしい気持ちがあり、依頼、常に発信し続けてきたが、それが仕事と結びついたのだ。その頻度は多くはないが、いざ結びついた時には強固な関係になる。ビジネスとして上手くやってきた訳ではないが、やはり続けてきたからこそではないかと語る。

 また、庭師は完成品を見せることが普通だが、完成するまでの過程がおもしろい、と二朗氏。兄の耕造氏は多種多様な本を読んでおり、それが庭づくりにも生かされている。しかし、一度や二度会っただけでは伝わりづらい。だから発信する中で、自分たちを構成する要素をうまく表現したいと考えているのだという。

 サブテーマである「伝統とトレンドのつなぎかた」について。二朗氏が伝統の継承を意識しつつ、耕造氏がトレンドを意識したものに寄せて、一つの作品をつくっているように感じる、と言う澤田氏。伝統とトレンドの混ぜ方の発想はどこから来るのだろうか。


ラフォーレ原宿(東京・神宮前)、源氏山テラスの庭園


エイチ ビューティーアンドユース(東京・南青山)の植栽

●掛け算


辰己兄弟が「話を聞きたい!」と思う業界人にインタビューしたインスタライブのアーカイブ

 世の中には「今の時代っぽい」ものが必ずあり、それを見つけることが好きだ、と話す二朗氏。同じ材料でも扱い方で、今っぽくも昔っぽくもできてしまう。そのようなことを意識しながら、つくっているという。

 耕造氏は、植木屋の息子という文脈を縦軸に、横軸にはカルチャーや自分たちの興味のあるものを置いて、それが掛け算となり庭づくりにも影響している、と語る。ラフォーレ原宿の「源氏山テラス」を例に出すと、若い文化が集まる場所だからこそ、伝統的なものを取り入れることで化学変化が起きるのではないか、と掛け算を意識しながら取り組んだ。また、「誰と仕事をするのか」も大事だという。SNSは自分たちの考えが意識していなくても滲み出てしまうものであるから、その人が何をしたいのか、どんな人と仕事をしたいかなど、自分たちとの読み合わせは必要な工程ではないだろうかと。SNSを活用しながら情報を発信しているからこその観点だろう。

●二つのキーワード


二つのキーワードについて解説する辰己耕造氏(左)、二朗氏(右)

 これからの活動でベンチマークとなるものは何かと、問う澤田。兄弟は二つのキーワードを挙げた。

<ストーリーとナラティブ>

 時代が変化していく中で、最近はストーリーとナラティブを意識している、と耕造氏。ストーリーとは脚本が出来上がった物語、ナラティブとは一人一人が語ることのできる、いわば自分自身が主人公になる物語を指す。これからはナラティブが重要視されていくだろう。クライアントに合わせたモノをつくり、つくったものに対してクライアント自身が物語を紡いでいくようなつくり方をしていけたらと。

<コンセプトよりコンテクスト>

 作品を見せていくなかで、コンセプトを聞かれることがあるが、そこに違和感を感じる。コンセプトに重きを置くのではなく、グリーンスペースや自分自身のコンテクスト:文脈をみてもらった上で、そこを共有したいと思ってくれるクライアントと仕事をしていきたい。だからこそ情報を発信し続けている。

辰己兄弟に仕事のスタイル、庭への向き合い方などさまざまな質問を投げかける澤田氏

澤田氏は「辰己さんたちが考えている先に庭師の未来系があるのではないか」と最後に述べた。近年は都市部でも緑化が謳われ、住宅雑誌や建築雑誌でも定期的に特集が組まれており、無意識にでも造園に触れる機会は増えている。そのような時期だからこそ、庭づくりの伝統と社会のトレンドを掛け算し、新たな時代へと継承することは、将来の造園界のひろがりにつながっていくのではないだろうか。今後どのような空間が生まれ、そこでどんな物語が紡がれるのかが楽しみだ。

【文=中谷夏巳】
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▽データ
国際ガーデンEXPO セミナー
テーマ:イケてる庭師のたたずまい 〜伝統とトレンドのつなぎ方〜
日時:2020年10月15日 
講師:GREEN SPACE 庭プロデューサー・辰己耕造、庭師・辰己二朗 
季刊『庭』編集長・澤田 忍

講師プロフィール

講師:左から辰己二朗氏、澤田 忍氏、辰己耕造氏

GREEN SPACE
辰己耕造(兄:庭プロデューサー・76年生まれ)
辰己二朗(弟:庭師・79年生まれ)
造園を生業とする家に生まれ、2015年から父がつくった会社である(株)グリーンスペースオオサカの代表に就任。主に個人邸や店舗の庭を設計すること、つくること、そしてつくった庭をお手入れすることを中心に活動。その他に も「たくさんの方に庭に触れていただきたい、植物に興味を持っていただきたい」という思いから、庭に関する講演・苔玉づくりなどの ワークショップ・古庭園案内ツアー・トークイベント・室内空間でのインスタレーションなど、庭や緑に関する様々な活動を行う。http://green-space1991.com/

澤田忍 季刊『庭』編集長 エディター/ライター 
京都芸術大学(旧京都造形芸術大学)大学院芸術研究科修了。(株)商店建築社『月刊商店建築』にて編集に携わる。『indoor green style』(2001年~2007年)『URBAN GREEN』(2007年)編集長。2008年~フリーランス。インテリア、建築、デザイン、アート、ランドスケープ関係の雑誌、書籍の編集、執筆に携わる。2013年より現職。https://niwamag.net/

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