『建築設計2.0 ―New Normal な社会に向けて―』[芝浦工業大学 建築研究会]
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『建築設計2.0 ―New Normal な社会に向けて―』
企画:芝浦工業大学 建築研究会
<建築設計2.0―New Normal な社会に向けて―>
(ポスター作者:建築研究会 1年 服部和)
*¹仮想空間:コンピューターネットワーク上の仮想的な空間や環境。
*²現実空間 :私たちの肉体が存在する現実的な空間や環境。
*³バーチャル SNS cluster:「スマートフォンやPC、VR機器など様々な環境からバーチャル空間に集ってイベントに参加したり、友達とコンテンツを楽しめるバーチャルSNSである。clusterのイベントでは主催者と参加者をシステム的に区別しており、イベント開催に適した機能を揃えたプラットフォームとなっている。また、イベントページのURLをシェアするだけで、数百~数千名のユーザーが好きな場所から集まってイベントに参加できる。」
引用:<https://cluster.mu/e/a6bce558-0982-4db4-8368-5eee6e9f4a78>
■開催趣旨
私たち、芝浦工業大学建築研究会 / 澤田研究室(所属学生 34 名)は、建築・都市について様々な視点から研究・思考を重ね、日々活動している。1984 年から毎年、建築研究会 / 澤田研究室が春休みから実践してきた議論の集大成として、「建築展」を日本建築学会・建築会館 1F ギャラリー(東京都港区芝 5 丁目)をお借りして開催してきた。しかし、このCOVID-19 の影響で、会館での開催を断念せざるを得なくなった。
私たちは、36 年の「建築展」の歴史を断ちたくない一心と、2020 年 3 月からオンラインでつながり合い議論と学習を続けてきた成果を広く皆様にお伝えしたいという気持ちから、オンラインでの開催を決めた。
■会場の様子
私たちは『バーチャルSNS cluster』で4つの著名な建築を模したワールドを構成し、研究内容を展示した。イベント参加者はその4つのワールドを体験した後、Webサイトにあるアンケートに答えていただき、私たち開催者とイベント参加者の双方向的な学びの場を築いた。
(建築展-会場1-)
(建築展-会場2-)
(建築展-会場3-)
【建築展-会場ロビー-】
「会場ロビー」では、本イベントを開催した旨や動画、分析を展示した。分析では、飲み会や買い物などの生活・活動シーンをバーチャルで再現することで、現実/仮想空間の同一性と差異性を見出せないかと考えた。また、実際の展示会場を想定した(毎年使ってきた施設を模した)「会場ロビー」から、遠く離れた分析対象建築サイトを「会場1」「会場2」「会場3」としてワールドの移動体験ができるようにした。
【建築展-会場1-】
「建築展-会場1-」では仮想空間上で、自分自身をアバターに見立て客観的に観察し、主観的な体験の得られ方を分析した。分析より、自身のアバターの進行ルートに合わせて 3D オブジェクトを配置することで、未来の事象である自身の移動した姿と、過去の事象である自身の移動する前の姿を認識させ、自身を客観視して観察するという現実空間では限られた人にしかできない体験を、より多くの人が体験できるようにデザインした。
【建築展-会場2-】
「建築展-会場2-」では、海や山といった周辺環境と調和した建築を仮想空間上で表現した。周辺環境(海や鉄道、背景の山並みまで)と一体的な建築モデルを示すことによって、実際に行ったことがない人も、その場の周辺環境を意識できるようにした。また、仮想空間内での他者とのコミュニケーションについても分析した。空間上でユーザーが自由で気軽にコミュニケーションできるように、チャットログを表示するパネルを配置し、仮想空間上でのコミュニティの場としてデザインした。
(会場2 駅の外観)
【建築展-会場3-】
「建築展-会場3-」では、仮想空間上で建築模型のように断面を分割し、それを実空間のように、あるいは建築模型の中を歩き回るような体験空間を表現した。現実の建築模型は、設計者の意図が色濃く反映され、制作方法や縮尺が一つに設定されるが、サイバー表現ではその制限がなくなり観察者の感覚を自由にするように思えた。建築設計に詳しくない人々が模型の中に入り込むという非現実的なわくわく感が生み出されたのではないかと思う。建築空間の新たな楽しみ方のデザインであり、新たな発見があった。
(会場3 1Fからの眺め)
■展示での結論
仮想空間上にある建築空間を現実空間にある建築とリンクさせることで、これまでにない空間体験を可能にし、建築設計者とユーザー(建築を体験し使用する人々)の垣根を超えた、よりオープンな建築の創作行為が可能になるだろう。建築・建設業専門家以外の多くの人々が、閉鎖的になりがちな建築・建設の専門分野に、だれでも参画しやすくなる可能性、つまり、建築のつくり方、働き方、学び方のイノベーションに結びつくのではないかと考える。COVID-19 によって加速したNew Normalな社会において、建築設計者は仮想空間と現実空間を緊密に結び関係付け、「建築設計 2.0 」へアップグレードしていくべきタイミングなのかもしれない。
■OB・OGとの座談会
芝浦工業大学 建築研究会OB・OGの皆様と私たち学生で、今回のイベントについて議論する機会をもった。テーマは「設計者の意図を伝えるために仮想空間はいかなる効果があるか」や「仮想空間は建築設計者とユーザーの交流の場になりえるか」など、建築設計における仮想空間の在り方について多面的に議論した。今回のイベントで用いた『バーチャルSNS cluster』の様な仮想空間が、ユーザーとのコミュニケーションにおいてそれほど効果的なのか?といった批判的批評もあり、議論が白熱した。最終的には、「言葉にできない、形にできないユーザーの要望」をどう叶えるのか、「違う視点から何かを発見するツール」として仮想空間をいかに活用するべきか、などの議論が交わされた。筆者は今回の座談会で、社会で働くOB・OGがユーザーとどのようにコミュニケーションしているのか、建築設計者とユーザーの交流を仮想空間のツールを用いて行うメリットやデメリットを知り、考える貴重な経験となった。
座談会の議題
■イベントを終えて
今回のイベントを終えて私が特に感じ、学生の皆さんと情報共有したいスキルについて述べたい。
一つ目は、デジタル化の可能性を察知する力である。時代と共にデジタルツールの進歩を皆さんも肌で感じているはずだ。近年、建築関係の多くの企業や大学機関がBIMやAR/VRを活用するようになった。建築設計業は社会に出てから学ぶことが多いと聞くが、時代と共に進歩するデジタルツールをいかに扱うかは未開拓な部分が多いと感じる。私たち学生は未開拓な領域に学び実践し錬磨することで次の社会に対しての貢献のあり様が変わってくるに違いない。増々発展するデジタルツールや手法を適材適所で創造的に用い、新たな価値を創造する意欲を持つことが重要であろう。必要となる技能や発想力、そして意思決定力を日々の生活・活動で修練し、身につけたい。新しい時代を切り開くのは我々の世代だ!と高らかに主張してみたい。
二つ目は、時代の変化に応答し適応する柔軟な対応力である。COVID-19 の影響で、私たちの生活・活動に大きな変化が起きた。大学での授業や研究室の活動も例年とは違い、オンラインで行われている。本イベントを開催する過程でも多くの困難があった。その中でICT環境の力を借りて効率的に作業が行えた。コロナ禍の活動は、高いクリエイティビティを発揮するチーム活動の在り方を思考し行動し続けるものだった。今回の経験で、変化する時代にいかに適応できるか、新たな道を切り開く困難さと喜びを実感した。今後予測不能な世界で次々に巻き起こる事態において、一々怯んではいられない。この先出会うであろう多くの人々の楽しさを共に知り、考え、創りたい。ひとりひとりの生活を幸せに、活動を闊達にできる建築やまちの在り方を仲間と共に追求していきたい。私自身、この場で述べた言葉に恥じないよう、様々なことを積極的に学び経験していきたい。
文:小茂田 和
▽データ
主催・企画・運営:芝浦工業大学 建築研究会
会場 :『バーチャルSNS cluster』(オンライン)
会期 :2020年9月25日~2020年10月25日
公式サイト :https://sites.google.com/view/sit-kenken-2020/home
著者紹介
所属 :芝浦工業大学 システム理工学部
システム理工学部 環境システム学科4年
建築研究会 座長(本イベント代表)