• HOME
  • 記事
  • リポート
  • 【レポート】SADI定例講演 「北欧のテキスタイル・デザインと私」鈴木マサル(テキスタイル・デザイナー)

【レポート】SADI定例講演 「北欧のテキスタイル・デザインと私」鈴木マサル(テキスタイル・デザイナー)

SADI定例講演(2019年10月)
「北欧のテキスタイル・デザインと私」
鈴木マサル(テキスタイル・デザイナー)

色鮮やかなデザインは自由の象徴

北欧建築・デザイン協会(SADI)では年に5~6回、北欧関連の建築家やデザイナーを招いて、講演会を開催している。10月の講演で登壇したのは、日本でも人気のフィンランドのファブリック・ブランド、マリメッコとのコラボなどで知られるテキスタイル・デザイナーの鈴木マサルさんだ。鈴木さんは自身のブランド、OTTAIPNU(オッタイピイヌ:フィンランド語を思わせるが、鈴木さんの造語とのこと)[http://ottaipnu.com/]を主宰する傍ら、国内はもちろん、マリメッコやラプアン・カンクリ、バング&オルフセンといった北欧ブランドとのコラボレーションをはじめ、世界各地で意欲的に活動中。毎年、魅力的な作品を数多く発表している。

北欧のテキスタイル・デザイン

北欧デザインと言うと、建築家アルヴァ・アールトに代表されるように、白を基調にしたシンプルで合理的、機能的な空間やデザインが、まず思い浮かぶ。しかし、マリメッコをはじめテキスタイルに関しては、それが当てはまらない。マリメッコと言えば、色鮮やかで大胆な大柄のモチーフを描いたデザインが持ち味だ。
「なぜ北欧のファブリックは、色鮮やかで大柄のデザインが多いのか」。日本人の多くが抱くこうした疑問に対して、「これは伝統的なフィンランドのデザイン傾向ではない。むしろ1960年代のポップアートの潮流と関連するのではないか」と鈴木さん。マリメッコの代表的なテキスタイル・パターン『ウニッコ』(1964年)を例に挙げ、同年に発表されたアンディ・ウォーホルの色彩豊かなポップアート作品『フラワーズ』との類似点を指摘した。1951年にマリメッコが登場する以前のフィンランドのテキスタイルは、地味な色調で、現在とはデザインの方向性も全く違っていた、と言う。流行を敏感に、大胆に取り入れてきた、創業者のアルミ・ラティアとマイヤ・イソラの慧眼と手腕が、マリメッコを、今や北欧デザインの象徴とも呼べるブランドに成長させたのだろう。


鈴木マサルさんがデザインしたマリメッコのファブリック。マリメッコ『Kranssi』。

日本での経験を経て世界へ

キャリアの始まりは、日本のファブリック・ブランド。多様なデザインを夢見て入ったものの、無地と無彩色を中心としたシックで、日本の万人受けするようなカーテン・デザインを無数に手がけることになった鈴木さん。その反動が、色彩鮮やかなデザインを手がける世界へと向かわせたのだ。

数々の仕事と経緯を経て、2010年、念願だったマリメッコとの協働がスタート。当初は、なかなか色鮮やかなデザインをまかせてもらえなかった。その理由「長年、シックなデザインばかりを手がけてスキルが上がっていたため、マリメッコでもシックなデザインのスキルのほうが評価され……」というくだりでは、聴衆に思わず笑みがこぼれた。

続いて、今治タオルのバスマット、バング&オルフセンのスピーカーカバーなど、有名ブランドとのコラボ作品を披露。特に家具メーカーのアルフレックスで、ロングセラーの名品ソファ「マレンコ」のカバーを複数デザインした逸話は印象的だった。アート作品を思わせる、鮮やかな色彩が混在した大胆なパターンで圧倒されるものばかり。すべて完売したのだが、中でも、いちばん刺激的なデザインの『dance』が人気だったというのに驚かされた。
プロダクトの他、インスタレーションやインテリア・デザイン、幼稚園の天井デザインなどまで、鈴木さんの活動は幅広い。

アルフレックスとのコラボレートワーク「MARENCO×Masaru Suzuki」で生まれた『dance』(2014年)。

乳幼児の視線を意識した「第二さみどり幼稚園」の天井デザイン。

人にとって最も身近な素材「布」


OTTAIPNUファブリック・デザイン『harinezumi』(2007年)。


OTTAIPNUファブリック・デザイン『tatan』(2016年)。


OTTAIPNUファブリック・デザイン『turkey』(2016年)。


OTTAIPNUファブリック・デザイン『noki』(2019年)。


OTTAIPNUファブリック・デザイン『tanada』(2019年)。

「人は生まれてすぐ布にくるまれ、一生、布を身に付け続ける。だから、布は人にとって特別な素材」と言う鈴木さん。2005年に立ち上げた自身のブランドOTTAIPNUでは、さらに自由に、さらに大胆に、鮮やかな色の組合せや大きな絵柄を楽しんだ作品を展開している。ファブリック作品は、いつもフィンランドの自然の中で撮影するそうだ。「さすのに勇気がいる」と鈴木さんは言うが、さまざまな動物をモチーフにしたデザインの傘は、雨の日のゆううつな気分を楽しく彩ってくれそうだ。


『鈴木マサル傘』展(青山スパイラルガーデン、2014年)。


OTTAIPNU傘シリーズ。

どれも中身の濃い刺激的な話題でありながら、不思議と、聞き手の身近な生活の問題につながっている。正に今、第一線で活躍していて、脂の乗っているデザイナーならではの力強さとエネルギーが伝わってきた。

勇気をもって色を楽しむ

生活の中で鮮やかな色を使うというのは、自分を楽にするためではない、と鈴木さんは言う。「むしろ逆で、色を使うことで自分が変わらなければならない。自分に対してハードルを上げることになるんです。だから、色の付いた物を選ぶことには、勇気がいる。でも、それによって、気持ちが前向きになり、今までと何かが変わる、と思うんです」。

少し勇気を出して、カラフルなものを選ぶことが、暮らし慣れた日々の中に、新しい世界を拓いてくれるかもしれない。また、使い方を想像できないほど大胆なデザインのファブリックを手に入れ、自分なりの使い方を考えることで、新たな自分が見つかるかもしれない。そんなことを改めて感じさせてくれた講演であった。

文:高遠 遙

主催:北欧建築・デザイン協会(SADI)
講師:鈴木 マサル(テキスタイル・デザイナー)
日時:2019年10月15日(火)18:30~21:00
会場:東京大学農学部弥生講堂アネックス・セイホクギャラリー
参加費:一般1,500円/学生500円/会員1,000円/学生会員無料
定員:70名(会場先着順)

すずき・まさる
ファブリック・デザイナー、東京造形大学造形学部デザイン学科教授

多摩美術大学卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。
1995年に独立、2002年に有限会社ウンピアット設立。2005年からファブリックブランド OTTAIPNU(オッタイピイヌ)を主宰。自身のブランドのほか、マリメッコ、カンペール、ユニクロ、ファミリア、zoffなど国内外のさまざまなメーカー、ブランドから作品をリリース。主な個展として、2014年『鈴木マサル傘』展(青山スパイラルガーデン)、2017年『鈴木マサルのテキスタイル』展(三菱地所アルティアム)など。2016年に作品集『鈴木マサルのテキスタイル』(誠文堂新光社刊)を出版。
http://masarusuzuki.com
http://ottaipnu.com

関連記事一覧