(大会レポート)デザコン2018 「ロボコン」だけじゃない!! 高専のデザイン力と技術力を見せつける–デザコン2018 in 北海道
◆2018、北の大地でデザインの腕を競う!
高等専門学校(以下、高専)と言えば、NHKのTV番組で紹介された「ロボコン」が有名だが、実は、「ロボコン」を含めて年に4つの大イベントがあり、デザコンもその1つ。こうしたイベントは、各学生の創造力に刺激を与えることを狙っていると同時に、全国に点在する56高専の学生同士の限られた交流の場でもある。
毎年、各高専の持ち回りで運営されるため、全国各地で開催されることもデザコンの特徴だ。今年は、北海道にある4校の協力により、釧路での開催となった。9月の北海道胆振東部地震の影響が心配されたが、無事に開催できたのは関係者の努力の賜だろう。
◆多岐にわたるデザインの力
デザコンで競うのは、大会名の通り、デザインだ。しかし、このデザインという言葉には、一般に想像される、いわゆる「意匠」だけではなく、エンジニアリング・デザインをはじめ、物やシステム、人間関係など、多様な意味でのデザインが含まれている。デザコンは、工学系学科の多い高専の特徴に合わせ、多様なデザインに取り組めるよう厳選された、空間デザイン、構造デザイン、創造デザイン、AMデザインの4つの部門と、デザコン参加への準備段階として用意された、低学年(高校生の世代)対象のプレデザコン部門からなる。
◆構造デザイン部門で大事件! 半数以上が不適格
大会当日は、小雨模様。学生たちは、学校ごとにそろいのジャンパーでまとまって、あるいは数人で大きな箱を携えながら、釧路川の河口に面した会場に集まってきた。
指導教員がサポートしているとは言え、学生たちの取り組む姿勢は真剣だ。初日のパソコンとスクリーンを使ったプレゼンテーションでは、おしなべて達者な説明ぶりに驚かされた。審査員の厳しい突っ込みに、ひるまず果敢に答える、自作の魅力を切々と訴える、など、微笑ましくも頼もしい光景が、各部門で展開した。一方、構造デザイン部門の仕様確認では、1回めの検査で半数以上が規定に不適格という大事件が勃発。会場片隅に即席でできた作業場で、大勢の学生が押し合いながら必死に模型の修正作業に取り組んだ。この光景は、今年の大会の印象深いシーンともなった。
◆次のステップに進むための経験
2日めは、前日と打って変わって抜けるような青空。各部門、勝敗を決するメインイベントが組まれていた。会場には、初日とは違う緊張感が漂っていた。一方、プレデザコン部門の投票結果はすでに掲示されている。
自作の橋の模型が壊れずに規定の荷重に耐えられるかに勝敗がかかる構造デザイン部門、ポスターセッションで審査員を説得できるかどうかが入賞への鍵となる他の3部門。そして午後、僅かの差が雌雄を決し、各入賞作品が決定した。構造デザイン部門では、今年は順当に、伝統の強豪校が実力を見せつけた。
満面の笑顔で熊の盾を抱きしめる学生がいる一方、賞を逃した学生の涙も見える表彰式。
来年の開催は、東京。参加した学生たちは、この経験を次の場で、来年の大会で、社会できっと活かしてくれることだろう。(取材・文:高遠 遙)
◆空間デザイン部門
建築設計のコンペティションと同様に、建築設計案の優劣を競う部門。
2018年の課題は、時を経て味わいが出ることにより、人々に長く愛される建築空間と、人々が使い込んでいくことによってその空間を熟成させていく仕組みの提案だ。敷地と建物用途は自由だが、敷地周辺の日常生活や歴史、行事、組織などに関する現地調査をもとに提案することが求められた。A1判サイズ(横向き)ポスター最大2枚(必須)、模型などを、規定寸法の展示スペースに自由に展示。展示デザイン自体も審査の対象になる。パソコンとスクリーンを使った提案説明と質疑応答(プレゼンテーション)、展示会場での巡回質疑応答(ポスターセッション)を経て、公開討議により、すぐれた設計案5作品が入賞となった。
◆構造デザイン部門
規定の材料を使って、規定寸法の構造物を作り、そのデザイン性、軽量性、耐久性を競う部門。
2018年の課題は、砲丸を転がせるように橋面が傾斜した銅製の橋。まず仕様確認で、規定通りの仕様で制作されているかを確認。不備があれば修正して再度、検査を受ける。不備があるまま耐荷性能試験に望む場合は減点される。審査員審査では、審査員がポスターと制作した橋を展示したブースを巡回して参加学生と質疑応答。橋の美しさ、構造システムのアイディアや合理性、軽量さなどを審査する。耐荷性能試験では、おもりを段階ごとに増やして橋に集中荷重をかけていき、その過程で2回、橋の上に5kgの砲丸を転がす(移動荷重)。
◎集中荷重(10kg→20kg→30kg)→砲丸→集中荷重(35kg→40kg→45kg)→砲丸
最後まで、橋が変形せずに耐えられれば満点。各審査過程での評価を合算した総合得点をもとに、入賞6作品が決まる。軽量で、美しく、頑丈な構造体になっている作品が評価された。
◆創造デザイン部門
地域資源を活かし、高専が何らかの形で関わるプロセス・デザインの提案の優劣を競う部門。プロセス・デザイン=地域資源をもとに発想し、適切な段階で技術や知識、人材を加えることを経て、目標とする地域像を実現するためのプロセスの提案、を意味する。
提案内容は「もの(装置)」でも「こと」でもよい。「もの」の場合は、それがどのような仕掛けで地域振興に貢献していくかというプロセスの提案も必要。2018年の課題は、地域資源を活用した付加価値の高いビジネスモデルの提案。地域の課題を発見し、地域のニーズと文化性を踏まえ、多様な成長シナリオに基づく課題解決への仕組みが求められた。パソコンとスクリーンを使った提案説明と質疑応答(プレゼンテーション)、展示会場での巡回質疑応答(ポスターセッション)を経て、地域性、将来性、自立性、具体性にすぐれた提案が入賞6作品となった。
◆AMデザイン部門
AMデザインのAMとは、Additive Manufacturing=付加製造の略。複雑な構造や一品物を製造できるAM技術=3Dプリンタによるものづくりのアイディアの新規性と事業性を評価する部門だ。部分的でもよいので、AM技術を使った製作物を多面的に評価する。
2018年の課題は、3Dプリンタによる造形技術を活用して主要部品を製作した、スポーツに使う装具や器具の開発。A1判サイズ(縦向き)ポスターと3Dプリンタによる製作物(必須)、補足の物などを展示する。パソコンとスクリーンを使った提案説明と質疑応答(プレゼンテーション)、展示会場での巡回質疑応答(ポスターセッション)を通して、参加学生の相互投票結果を参考に、作品の新規性・独創性、実用性、事業性、活用性、プレゼンテーション力が評価された。5作品が受賞。
◆プレデザコン部門
デザコン参加への準備段階として用意された、低学年(高校生の世代)を対象とする部門。他の4部門と関連したフィールドに分かれ、各課題に応じた提案をまとめたA3判サイズのポスターのみで評価される。展示された応募ポスターを見て、他部門の審査員、教職員、協賛企業、学生、一般来場者が投票し、合計得点により入賞作品が決まる。
2018年の課題は、
①空間デザイン・フィールド:現存、または過去に実在した構造物や風景の透視図。一般的に人の目では見られず、写真でも撮れない構図であること。
②創造デザイン・フィールド:2019年東京大会のエコバッグのデザイン。
③AMデザイン・フィールド:次世代のサポート技術(環境・防災・情報・エネルギー・福祉等)とその効果の提案。
(取材・文:高遠 遙)
結果概要
■空間デザイン部門
テーマ | 「発酵する空間、熟成する空間」 |
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審査員 | 鯵坂 徹(審査員長、建築家、鹿児島大学大学院教授)、小野寺 一彦(建築家)、石井 孝行(建築家) |
賞 | 最優秀賞『集落まるごと町役場』 可知 昂暉、田川 桜、谷口 京、渡部 巴菜 (米子工業高等専門学校) 優秀賞 『他所の市 此処の市』 優秀賞 『ヤマサ –煙突の煙が幸せのかけらを報せる』 審査員特別賞 『これからも、宮地んこどもの百貨店』 審査員特別賞 『眺める味わう感じる。わたしたちはこれからもカバタと生きる。』 |
■構造デザイン部門
テーマ | 「より美しく、より強く」 |
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審査員 | 中澤 祥二(審査員長、豊橋技術科学大学教授)、岩崎 英治(長岡技術科学大学教授)、伊藤 晃(国土交通省北海道開発局職員) |
賞 | 最優秀賞(国土交通大臣賞)『麗瓏』 林 暉、近藤 瑠星、田口 敦也、野田 夏希、秦 周平、森岡 咲里(米子工業高等専門学校) 優秀賞 『思伝一線』 優秀賞 (日本建設業連合会会長賞) 『流々』 審査員特別賞 『国士夢想』 審査員特別賞 『チェストォ-橋』 日刊建設工業新聞社賞 『橋らしい橋を目指して』 |
■創造デザイン部門
テーマ | 「地方発進! 『脱・横並び』」 |
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審査員 | 鯵坂 徹(審査員長、建築家、鹿児島大学大学院教授)、小野寺 一彦(建築家)、石井 孝行(建築家) |
賞 | 最優秀賞(文部科学大臣賞)『杉坂を焼いて黒くする!ビジネス–但馬・丹後の日本海沿岸の建物に活用するために』 浦野 萌子(明石工業高等専門学校) 優秀賞 『堀を語ろう –秋田市佐竹小路のクリエーターによるまちづくり』 優秀賞 『舞鶴行動』 審査員特別賞 『みんなでつくる集いの蔵–宮崎県都城市庄内町・社会実装プロジェクト』 審査員特別賞 『福祉×農園–園児と高齢者の楽しい農業』 総合資格賞 『下宿から始まり駅に向かう–六の段階で津幡町が変わるまで』 |
■AM(Additive Manufacturing)デザイン部門
テーマ | 「スポーツ支援アイテム開発」 |
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審査員 | 新野 俊樹(審査員長、東京大学生産技術研究所教授)、川道 昌樹(起業家、株式会社ワールドワーク代表取締役)、松田 均(経済産業省製造産業局職員) |
賞 | 最優秀賞(経済産業大臣賞)『Tリーグファン養成ギプス』 井上 花菜(津山工業高等専門学校) 優秀賞 『サウンドディスク–ディスク周りの流れる空気をキャッチ』 優秀賞 『変幻自在!みんなが「ハニカム」サポーター』 審査員特別賞 『ダーツ競技のための3Dプリントシステム』 審査員特別賞 『円盤投射機』 |
■プレデザコン部門
テーマ | 気になる「もの」 空間デザイン・フィールド/創造デザイン・フィールド/AMデザイン・フィールド |
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審査員 | なし |
審査方法 | 来場者による投票 |
賞 | 最優秀賞(科学技術振興機構〈JST〉理事長賞)、一般投票優秀賞(空間デザイン・フィールド) 『BOOK AND BED TOKYO「泊まれる本屋®」』 溝口 莉那、川畑 礼奈(明石工業高等専門学校) 優秀賞(科学技術振興機構〈JST〉理事長賞)(空間デザイン・フィールド) 優秀賞(科学技術振興機構〈JST〉理事長賞)(創造デザイン・フィールド) 優秀賞(科学技術振興機構〈JST〉理事長賞)(AMデザイン・フィールド) |
イベント概要
イベント名 | デザコン2018 in 北海道 第15回全国高等専門学校デザインコンペティション 北海道大会 |
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会場 | 釧路市観光国際交流センター |
主催 | 一般社団法人全国高等専門学校連合会、独立行政法人国立高等専門学校機構 |
主管校 | 釧路工業高等専門学校 |
協力校 | 苫小牧工業高等専門学校、函館工業高等専門学校、旭川工業高等専門学校 |
会期 | 2018年11月10日(土)〜11日(日) |
大会テーマ | 守破離(シュハリ) |
大会構成 | 空間デザイン部門(以下、空間)、構造デザイン部門(以下、構造)、創造デザイン部門(以下、創造)、AMデザイン部門(以下、AM)、プレデザコン部門(以下、プレ)の5部門に分かれて競う *以下、高等専門学校および工業高等専門学校を「高専」と省略し、高専名(キャンパス名)で記載 |
予選 | 空間 9/27、創造 9/26、AM 9/21 11/10-11 作品展示 11/10 プレゼンテーション(空間、創造、AM)、参加学生による相互投票(AM)/仕様確認、審査員審査(構造)/投票(プレ) 11/11 午前=ポスターセッション(空間、創造、AM)/耐荷性能試験(構造)/入賞作品発表(プレ)/ 午後=公開審査(空間)/受賞作発表と講評(構造、創造、AM) |
応募条件 | 高専に在籍する学生。1部門1作品のみ応募可。(空間、構造、創造、AM)/高専に在籍する本科3年生以下の学生。各フィールド1作品のみ応募可。(プレ) |
応募数 | 291作品=空間151作品(327人、21高専)、構造58作品(318人、35高専)、創造35作品(109人、13高専)、AM26作品(82人、18高専)、プレ21作品(36人、8高専) |
出展数 | 111作品=空間12作品(42人、9高専)、構造58作品(318人、35高専)、創造11作品(37人、7高専)、AM9作品(24人、8高専)、プレ21作品(36人、8高専) |
審査方法 | 予選は、同じ審査員によるポスター(空間、創造)、提案書(AM)での審査。空間、創造、AMの本選は、各作者による提案説明と質疑応答(プレゼンテーション)、展示会場での巡回質疑応答(ポスターセッション)を経て各賞を決定。空間は、公開討議を行ない、各賞を決定。構造は、出展模型の仕様確認、展示会場での巡回質疑応答(審査員審査)での評価と、模型の耐荷性能試験の結果を合算して、各賞を決定。賞品:各賞とも 賞状+盾+副賞。盾は、地元の阿寒アイヌコタン「熊の家」による手彫りのヒグマの盾。 イベント詳細は、http://デザコン.com/ |
賞品 | 各賞とも 賞状+盾+副賞。盾は、地元の阿寒アイヌコタン「熊の家」による手彫りのヒグマの盾。 イベント詳細は、http://デザコン.com/ |
編者 : 一般社団法人全国高等専門学校連合会
判型 : B5
頁数 : 160
定価 : 1,600円+税
発行年月 : 2019年05月
コード : 978-4-86358-628-4
やわらかいアタマが、コトとモノをカタチにする。
釧路で開催された第15回「全国高専デザコン」、その全容を伝える公式記録集。
空間デザイン/構造デザイン/創造デザイン/AM(Additive Manufacturing)デザイン/プレデザコンの全5部門を収録。
各競技の審査過程を明らかにし、作品ごとに講評も掲載。
応募作品全290点を網羅した完全版!