【レポート】 LIXIL「Z世代向け コンセプト住宅づくりワークショップ」―建築学生や地域工務店とパッシブファーストを考える

自然の熱・光・風を利用した快適で省エネな住宅づくりを学ぶ
Z世代向け コンセプト住宅づくりワークショップ

Z世代と一緒に住宅をつくる

住まいの水まわり製品と建材製品を開発・提供している株式会社LIXILは、「インテリアデザイン」「パッシブデザイン」「住宅性能向上」フォーカスした住宅づくりを工務店に提案している。

2022年9月、これら3つのキーワードに加え、これからの購買層であるZ世代の考え方を踏襲したオリジナルな住宅商品の開発を取り組もうと、「Z世代向け コンセプト住宅づくりワークショップ」が東京と仙台で開催された。

参加者はLIXIL社と地域工務店、そしてZ世代である建築学生の三者。仙台では仙台建築都市学生会議から、東京では関東圏を中心とした建築学生サークル「フラット」から各10名の学生が集まった。

住宅は、仕事もリラックス時間も楽しめることが大事?

8月、ワークショップに先立ち、LIXIL社の3つのキーワードを学ぶセミナーが開催された。インテリアデザインセミナーのテーマは、「ホームワーケーション」。ホームワーケーションとは遠方に足を運ぶワーケーションではなく、自宅で仕事を含むあらゆる活動とバケーション的なリラックス時間を楽しむライフスタイルという意味を込めた造語である。

Z世代は、どんな消費行動もはじまりは“共感”。一貫したストーリー性が求められるため、企業のサービスや取り組みの背景、姿勢が問われる。今回のテーマは、それらを踏まえた住宅商品のプロモーションのキーワードから提案された。

まずは、LIXIL社がテーマをもとに同敷地・平面図をベースにした、3つの住宅プランを紹介。多趣味でアクティブな暮らしにおすすめの「Mountain」、家族とのリラックス時間を大切にする「River」、自然に寄り添いエシカルな生活を楽しむ「Sea」と、それぞれ異なる価値観を持つスタイルが並んだ。

「ひとつの住宅でも、いくつものプランが提案できるのを知ってもらいたかった」と、同社パッシブファースト推進グループの河原諭さん。確かに、同じLDKという間取りでも、各スタイルの家での過ごし方を考慮し、キッチンや家具等の配置、マテリアルや全体的な色合い・明るさ・雰囲気に違いが見られる。さらに、後半は参加者が2グループに分かれ、各スタイルの好きな点や、ホームワーケーションで共感できることをそれぞれ共有しあった。

「家は世界でいちばん落ち着ける場所という考えに共感。インテリアの色合いも含め、直感的に好きと感じた」と千葉工業大学3年の沓掛亮太さん。ほかの学生からは、「休息を取ることが中心の住宅から、これからは役割が多様化し、これまで以上のものが期待されていると感じた」という声も挙がった。

長く快適に過ごせる省エネ住宅を考える

LIXIL社は住宅の省エネを第一に考える「パッシブファースト」を掲げている。パッシブデザインとは、自然エネルギーを最大限に活用し、快適で質の高い室内環境を実現しつつ、省エネ・エコまで考えていく建物本体の設計手法。大きく分けて、①断熱、②日射遮蔽、③自然風利用、④昼光利用、⑤日射熱利用暖房の5つの性能が挙げられる。

今回、行われたパッシブデザインセミナーは、「基本性能と地域特性や敷地の配置等の検討を含めた設計力によって、住宅の答えが変わる」という話からスタート。主に「熱」に着目し、随所で季節毎の平均気温や時間毎の風向き等、地域の環境特性の解説も織り混ぜながら進行した。

例えば、窓は住宅の熱の出入に大きく関わる。熱が入るのも逃げていくのも窓のため、入る熱・逃げる熱のバランスを考えることが重要だ。セミナーでは窓の性能の違いや大きさ、方位、季節などの例を組み合わせながら、参加者は住宅内の熱の収支を問題形式で学んだ。

後半は、LIXIL社が提案するパッシブデザインの設計ルールを紹介。パッシブ機能を取り入れた窓配置の具体的な手順も紹介された後、身近な住宅のパッシブデザインの有無と、改善方法の議論が交わされた。なかでも印象的だった議題は、日差しがもっとも入る南面が階段廊下、北面にリビングが位置するという住宅である。

「難しい議題だったが、考えることが大切。楽しいこととして住宅設計の際に考えていただけたら、お客さまに喜ばれる良い提案ができていくと思う」と、同社中島氏。参加者は苦戦しつつも改善策を検討。「階段廊下をサンルームのような空間にしてリビングにつなげるのはどうか」などの意見が出た。

文=中谷 夏巳

過去〜現在〜未来、断熱性能の違いを肌で実感


住宅性能向上セミナーは、「LIXIL快適暮らし体験 住まいStudio」(東京・新宿区)にて開催。住宅性能のひとつである断熱性能とパッシブデザインの理解を深めるために、製品体験および交流会が行われた。

この体験型ショールームには、冬の寒さや夏の日差しを体験できるモデル住宅が設置されている。今回は、「昔の家」「今の家」「これからの家」という断熱性能の違う3つのモデル住宅を使用し、室外0℃の真冬を想定した環境で、室内温度を比較体感した。

「昔の家」(昭和55年基準)

初めに訪れたのは、昔の家。学生たちは、暖房が効いた部屋では「慣れた感じ」「想像より寒くない」と話していたが、廊下、トイレと暖房の空気が届かない部屋に移動するにつれて「寒い…」という声や、壁やサッシを触り「冷んやりする」という声を漏らしていた。
部屋の隅の方でも底冷えを感じたため床の温度を計測してみると、部屋の中央は16.8℃だったのに対し、隅の方は10.6℃と約6℃の温度差があり、人間が不快に感じる温度差である4℃を大きく超える結果に。滞在時間が長くなると一層冷えを感じたが、サーモグラフィ画像が足元からどんどん青色に近くなっていき、視覚的にもその状況が裏付けられた。

「今の家」(平成28年基準)

今の家では、「住み慣れた家の雰囲気」と感じている参加者も多く、昔の家と比べ、入った直後の体感温度は正直、あまり変わらないと感じる空間であった。
しかし、窓際に近づいたときには驚くほどの違いがあった。近くまで行くと冷んやりとするものの、靴下でも歩くことができたのである。廊下もリビングとの温度差はあまりなく、時間が経っても昔の家で感じた底冷えを感じることはなかった。
ただし、トイレはリビングに接しておらず、外気がそのまま影響するせいか、まだ寒いと感じた。

「これからの家」(G2基準)

これからの家に入った瞬間、暖かさを感じた。奥に進み、廊下やトイレに入っても寒さをあまり感じず、快適な空間だ。
部屋の床の温度差も、中央は20.3℃、隅の方は18.8℃で2℃を切っている。その暖かさはサーモグラフィ画像を見ても一目瞭然で、昔の家や今の家で見た青色はほとんどなく、黄色など温かい色がほとんどであった。

今回の温度体感ツアーは、昔から現在、そして未来の家と、断熱性能の違いを肌で感じる良い機会となり、学生から壁厚、サッシの構造などについて質問するなど、活発な意見交換も行われた。このように製品を体験しながら企業と学生が交流する機会は、学生にとって多くの学びや気づきがある。今回は、住宅の性能はもちろんだが、自分が目指す住宅設計を意識するきっかけとなり、また企業の雰囲気についても知ることができた貴重な機会だったといえるだろう。

学生とプロの設計手法の違いを学ぶ

9月2日、LIXIL本社(東京・江東区)にて、LIXIL社と中四国エリアの工務店7社、関東圏を中心とした建築学生サークル「フラット」の三者による「オンラインワークショップ」が開催された。当初は学生一同が岡山へ向かい、地域工務店の方と共に即日設計する予定であったが、コロナ禍の状況を鑑み、オンラインでの開催となった。

当日は、事前に行われたセミナーでの体験をベースに、「住宅性能の向上」と「省エネや自然の力を活かしたパッシブデザイン」についての2点をテーマに、グループディスカッションが行われたが、工務店1社につき学生が1~2人という、学生にとっては大変「密」に勉強できる機会であった。筆者は安成工務店(山口県)のグループに参加。「住宅性能の向上」をテーマとした話から始まり、設計手法に話題が移った。

印象的だったのは、「大学の授業で木造住宅の設計を行った際、家族を意識し日当たりの良い住宅をつくろうとした」と話した学生に対し、安成工務店 弘中氏が「住宅という空間に入ったときにどのように感じるかが大切。空間づくりにマニュアルはなく、人の五感に訴えかける設計をすることが大きなテーマ」と返したことである。

さらに、「料理は味を知らないとつくれない。食べて身につけるものである。建築も見て、体験してこのようなものをつくりたいと考えていくことが、具体的に良い設計をする方法である」ということや、安成工務店には、①気持ち良さの提供、②気持ち良さの数値化、③安心の担保、という三本の柱があることを教えていただいたり、実際に現在使用している熱計算ソフトの画面を共有していただいたり、施工時に使っている断熱材の写真や現場での熱の動きを見せていただくなど、大変参考になった。

ふたつ目のテーマは「パッシブデザイン」である。学生はデザインを考える際、雑誌やインスタグラムなどのSNSから情報を得ることが多い。そのため派手、特異的、写真が映えるものに惹かれ、そのような建築に憧れることが多い現状がある。そのような傾向を安成工務店の方は、「奇抜なものを若い頃はつくりたくなるもの。しかし、奇抜なものはもって1年。50年後に行ったときにもやっぱり気持ちの良いと思われる建築、多くの人が心地の良いと思える空間やモノが良いデザインだと思う」と説明されていた。

当日行われた工務店と学生とのセッションは、その内容や印象に残ったことなどが参加者全員に共有された。同じテーマで議論していたにも関わらず、話の方向や内容は多岐に渡り、どのグループの内容にも参加してみたかったと思えるものであった。

文:板村東磨

参加企業
 株式会社アート建工(本社;鳥取県米子市)
 株式会社 ウィンウィンホーム(本社;愛媛県西条市)
 和(かのう)建設株式会社(本社;高知県高知市)
 倉敷ハウジング株式会社(本社;岡山県倉敷市)
 株式会社 嵩心(本社;広島県三原市)
 株式会社 安成工務店(本社;山口県下関市)
 山根木材ホーム株式会社(本社;広島県広島市)

建築学生サークルフラットメンバー
 金城詩絵里(日本大学)
 沓掛良太(千葉工業大学)
 小峯泰基(工学院大学)
 鈴木竜雅(日本大学)
 土中梨央(神戸大学)
 中川諄也(東洋大学)
 廣田穂(文化学園大学)
 星雄太(芝浦工業大学)
 圓尾知沙(芝浦工業大学)

instagram:https://www.instagram.com/flat.arch.st/
Twitter:https://twitter.com/flat_arch

住宅づくりを考えるきっかけに

これまで大学で建築を学ぶなかで、何となく居心地の良い空間というものを意識していたが、物珍しさや目新しさに囚われすぎていたように思う。今回のワークショップを通して、「空間の居心地」について深く考え、自分の経験に基づいた現実的な居心地の良い空間をつくっていきたいと思うようになった。

居心地の良さについて考えるきっかけとなる出来事は、主に二つある。ひとつ目は住宅性能向上セミナーで行われた温度体感ツアーだ。断熱や光の入り方の違いによる温度変化を実際に自分の肌で体感することで、何となく事実として理解していた温度の違いによる空間の感じ方の変化をより具体的に理解することができた。

学生と地域工務店が直接、意見を共有し、勉強することができたのも大変貴重な機会であった。なかでも実際に設計を行う上で注意していることや重要視していることを伺った際、「過去の空間体験が設計を行う上で重要である」とアドバイスいただいたのは、とても印象的だった。良い空間をつくるためには、多くの良い空間を見て、感じて、五感すべてを使って空間と向き合いつくり上げていくことが大切である。今後も学生が現場を知り、社会を知り、将来の選択ができる機会が増えたらと感じた。

文=圓尾知紗

建築学生サークルフラット 圓尾知紗さん

パッシブデザインをテーマに即日設計!


仙台では、9月15、16日の2日間、「即日設計ワークショップ」が開催された。初の開催となった今回のワークショップには、LIXIL社に加え、東北地方の工務店で活躍する15人の設計士と仙台市周辺で建築・都市・デザイン・土木を学ぶ有志の学生団体である仙台建築都市学生会議のメンバーら10人が参加した。


初日、まず行われたのは、パッシブデザインを取り入れた住宅設計についてのセミナーである。LIXIL社員より、これからの住宅購買層がZ世代に移り変わること、Z世代の消費行動を踏まえた今後の住宅建設の動向等の説明がされた。

Z世代の特徴は、デジタルネイティブで情報収集力の高さ、社会問題や環境問題への関心の高さ、多様性への意識の高さなどが挙げられる。LIXIL社によると、デジタル化が進むからこそ、人や自然とのつながりが重要になり、住まいが担う役割も衣食住だけでなく、仕事や健康、運動、癒しなど複数の要素が加わるとのこと。それらの動向を踏まえた3つの暮らし方の事例から、「Mountain」「River」「Sea」とスタイルごとにパッシブデザインを取り入れた住宅が紹介された。

当ワークショップでは、それまでの学びを設計へと落とし込む作業を行なう。続いて行われたグループワークでは、学生、プロの設計者、LIXILのチューターが4〜7名で1グループとなり、雑談を交えながらも、「取り入れたいパッシブ機能」や「どんな住宅にしたいか」等を自由な発想で各々が意見を出し合い、活発に議論した。

求められた成果は、1階平面図、2階平面図、南面の立面図である。設定された施主条件は、30代前半の夫婦と子供が2人の4人家族。その他、いくつかの諸条件・要望をもとにプランを検討。学生の自由な発想とプロの設計者のアウトプット力で、アイディアがその場で図面に反映されていく。途中、煮詰まりながらも意見を交わし、何度も検討を繰り返して、1日目は終了した。


2日目、ギリギリまで図面を仕上げ、いよいよ成果の発表に。各グループ、それぞれパッシブの要素を各所に織り混ぜながらも、吹き抜けや大きな窓を設けた開放的なLDKが特徴的なプランや、土間での多様な過ごし方を提案したプラン、住宅内外のつながりを意識し庭の池や芝まで考えたプランなど、特色の異なる住宅を完成させた。

発表後の質問では、自分の”イチ押し”空間を紹介する場面も。「コロナ禍で家での時間が増え、オンとオフの切り替えができる場所が欲しかった。家の中でもスーツを着て、靴を履いて出勤できる空間として土間をつくった」と語る学生や、「リビングに吹き抜けを設けることで風の通り道にしただけでなく、大きな壁に映画を映して鑑賞したい」と語る学生もいて、その住宅に住むことをイメージしながら、プランを検討したことが窺えた。

「いつも教えてもらう立場だったが、今回はプロと同じ目線に立って対等に議論できたと感じた」と、仙台建築都市学生会議代表の秋葉さん。工務店側からも、「学生の意見を聞くという機会は普段なく、良い経験だった。今後の仕事にも活かしていきたい」、「若い世代とは考え方やその順序に違いがあった」、「学生の考え方を取り入れながら検討できて勉強になった」などの声が挙がった。また、「学生と過ごす時間が楽しかった。次回もお願いします」と次に期待する声もあり、互いに良い刺激を享受し合う時間となったようだ。

パッシブデザインは暮らしに新たな可能性と多様性を与える

暮らしのいちばん身近にある住宅は、その人の暮らしを映し出すもののひとつである。土間は蓄熱機能だけでなく、靴を履いて仕事をしたいという想いを叶える空間になり、庭の池や芝は住宅に涼しい風を送り込む機能だけでなく、見る人に安らぎを感じさせるものとなる。住宅設計に「パッシブデザイン」を取り入れることで、新しい暮らし方のヒントが生まれ、住む人の暮らし方をより反映する住宅づくりができるのではないか。小さな工夫で、機能的な住みやすさに留まらない、暮らしすべての質の向上へとつながる可能性を感じた。

パッシブデザインは環境に配慮する設計手法だけではなく、人々の暮らしに新たな可能性と多様性を与えてくれるものなのかもしれない。参加者には、そんな気づきを得られた2日間になったのではないだろうか。この企画が全国に広がり、新しい暮らし方のヒントが各地で生まれ、これからの住まいづくりへとつながることを期待している。

文=中谷 夏巳

参加企業
 株式会社 菊池技建 (本社;山形県山形市)
 株式会社 グリーンハウザー 住宅事業部(本社;宮城県仙台市)
 株式会社 D・LIFE(本社;岩手県盛岡市)
 株式会社 徳田工務店(本社;宮城県仙台市)
 ホウトクHOUSE 株式会社(本社;山形県東根市)
 株式会社 むつみワールド(本社;秋田県秋田市)
 株式会社 森のめぐみ工房(本社;宮城県仙台市)
 株式会社 Roots(本社;福島県耶麻郡猪苗代町)
仙台建築都市学生会議メンバー
 秋葉美緒(東北工業大学)
 阿久津麟太郎(東北大学)
 海道遥佳(東北工業大学)
 加茂賢登(東北工業大学)
 鴻巣陽菜(宮城学院女子大学)
 佐藤彩乃(宮城大学)
 佐藤朋香(東北工業大学)
 橋本明日香(宮城学院女子大学)
 山田竜誠(東北大学)
「仙台建築都市学生会議」
 HP:https://gakuseikaigi.com/
 Twitter:@SSNAU2021
 Instagram:@sendaigakusei
 Facebook:@sendaistudentnetworkofarchitectureandurbanism

「せんだいデザインリーグ 2022」
 HP:http://gakuseikaigi.com/nihon1/22/index.html
 Twitter:@2022_SDL
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 LUCHTA紹介ページ:https://luchta.jp/activity/gakuseikaigi

パッシブファーストをすすめるLIXIL

これからの住宅購入層となるZ世代である学生の皆さんと地域工務店様と一緒に住宅づくりをして、環境配慮するパッシブデザイン住宅が受け入れられたことを、まずは嬉しく思う。「消費は当り前、体験できる付加価値」の時代、気軽に設計に参加できたり、自分好みに気軽に手を加えられるような住宅づくりを楽しむプロセスが今後求められると感じた。一方で “住宅がここちよい空間であってほしい”という不変のニーズを満足するために、パッシブファーストの考え方を更に広げていきたい。今後も、学生の皆さんの声を聞きながら、地域工務店様の住宅づくりのお手伝いをしたい。

文=河原 諭(株式会社LIXIL)

「Z世代向け コンセプト住宅づくりワークショップ」
主催:株式会社LIXIL

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