【レポート】Vitraトークイベント 「DESK IS DEAD––時代と環境に適応するデザイン」エドワード・バーバー
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エドワード・バーバー&ジェイ・オズガビーのスタジオ風景。Photos:Vitra
Vitraトークイベント
「DESK IS DEAD––時代を環境に適応するデザイン」
エドワード・バーバー(建築家/インテリアデザイナー/プロダクトデザイナー)
自由な働き方を助ける自由な家具
コンピュータの登場は、現代の働き方や働く環境を劇的に変えた。ノートパソコンやタブレットPC、スマートフォンの普及、Wi-Fi環境の整備によって、人々はホテルのロビー、カフェ、空港、さらに公園など、場所にとらわれず自由に働くことができるようになり、今や公共スペースは働く場所=オフィス空間へと変わりつつある。そして、オフィス空間は、逆に公共スペースに変わりつつあるという。
今回のトークイベント会場は、ヤフー本社内にある1,330平方メートルの広大なオープンコラボレーションスペース「Yahoo! JAPAN LODGE」の一角。「LODGE」は登録さえ済ませれば、誰でも無料で利用でき、ほぼ連日トークイベントが開催されているという。このように、社員に限らず社外の人も仕事や打合せをしたり、くつろいだりすることができるオープンな空間づくりに、数多くの企業が乗り出し始めている。
これからは、こうした特定の場所に縛られることのない新しい働き方を受け止め、促進してくれるような、全く新しいオフィスのあり方やオフィス空間が求められていくだろう。
登壇者のエドワード・バーバーは、スイスの家具メーカーであるヴィトラで数多くの製品をデザインしてきたデザインデュオ、エドワード・バーバー&ジェイ・オズガビーの1人だ。場内には彼らのデザインした数々の家具が置かれていた。
揺るがぬ哲学のもと多彩な家具を実現
イギリスの学校Royal Society of Arts Academyの学習用の椅子として、従来の学校用家具から脱却した21世紀の教育にふさわしい家具デザインを目指した『ティプ トン』(2011年)。人間工学や経済性を加味して検討した結果、必要なのは「丈夫で軽量」「カラフルでシンプル」「スタッキングができること」「大量生産とリサイクルが可能」「三次元的な動きができること」という結論に至ったという。そこで、前方に傾斜する座り方には、身体への負担を軽減し、血液の循環を促して集中力を高める効果があるという研究結果をもとに、試作を重ねる。2年をかけ、体重移動に合わせて、前方に9度傾くユニークな椅子が生まれた。あとで場内に置かれた実物に座ってみたところ、予想以上に座り心地がよく、その動きと傾きの新鮮で絶妙なバランスに驚かされた。オフィス用のタスクチェアとしての高い機能性とやわらかいデザインという2つのコンセプトの調和を目指して開発されたのが『パシフィック チェア』(2016年)。外見に機械的な構造体が現れないよう工夫した背もたれによって快適で穏やかなデザインを実現し、アメリカ合衆国のアップル本社で採用された。その他、スタッキングできる『マップ テーブル』(2011年)などのオフィス家具から住宅用のソファ、インテリア・デザインまで、幅広いデザインを手がけてきた。
Tip Ton /『ティプ トン』(2011年)。
姿勢を安定したまま身体を前傾できるスタッキング・チェア。
Pacific Chair /『パシフィック チェア』(2016年)。
アメリカ合衆国のアップル本社で採用された。
Map Table /『マップ テーブル』(2011年)。
スタッキング可能。
Mariposa 2.5-Seater /『マリポサ 2.5シーター』(2014年)。
スタッキング可能。
家具から新しいワークスペースを考える
最後に、今回のテーマへの1つの回答として、2018年に考案した、最新の働き方を実現する新しいモジュラーソファシステム『ソフトワーク』を紹介。椅子がデスクを囲む従来型オフィスではなく、ソファを中心に据えた、新しい働く環境とデザインの提案だ。トークタイトルの「DESK IS DEAAD」の由来でもある。「くつろげる場所でちょっと腰掛けて、ノートパソコンや携帯電話を使って仕事をする、それが今の私たちの働き方」とバーバー氏は語る。とは言え、ラウンジなどで、ソファで背中を歪めてコンピュータに向かう人々の姿に心を痛めていた。そこで、コンピュータを使うには低すぎる座面の高さの見直しからスタート。そして、コンピュータの置き場所や散らばるコードなどの問題を解決するため、サイドテーブルや可動式ソケット、ワイヤレスチャージャー、スクリーンやクッション、照明など各種の付属品を用意した。人間工学に基づいて程よい硬さを保つ数種類のソファシートにサイドテーブルやサイドスクリーンなどを組み合わせることで、空間や用途に合わせて自由にカスタマイズすることができる。個人作業やチームでの仕事など、さまざまなシーンに対応できる上に、新たなスペースの創出を狙ったソファシステムだ。
Soft Work /『ソフト ワーク』(2018年)
まだ見ぬ新しいワークスペース
従来の特定の場所に縛られる働き方から解放され、フリーアドレスでフレックスタイムで、現在、人々は新しい方法で働き始めたところだ。働く中で、人々には今まで存在しなかった要望が生まれ、新しい機能や用途に応じた空間や家具が求められるだろう。全く新しい働き方が、全く新しい建築空間や家具を生み出すことになるのではないか。あるいは、その逆に、従来なかった全く新しい建築空間や家具の提案が、新たな働き方の可能性をさらに広げるかもしれない。そんな新しい世界の入口を垣間見せてくれるトークイベントであった。そして、その新しい建築空間を生み出すことは、自由な働き方を体験する若い世代に託された重要な課題ではないだろうか。
文:高遠 遙
写真: Vitra
イベント情報:
エドワード・バーバー トークイベント
主催:Vitra
登壇者:エドワード・バーバー(建築家/インテリアデザイナー/プロダクトデザイナー)
日時:2019年10月17日(木)18:30~21:00
会場:Yahoo! JAPAN LODGE
定員:150名(事前予約制)
エドワード・バーバー(向かって左)とジェイ・オズガビー。
略歴:
◆講師プロフィール
Edward Barber エドワード・バーバー
建築家、インテリアデザイナー、プロダクトデザイナー
1969年にイギリスのシュルーズベリー生まれ。パートナーのジェイ・オズガビー(Jay Osgerby)は1969年生まれでオックスフォード出身。ともに、ロンドンのRoyal College of Artで、建築とインテリア・デザインを学ぶ。1996年、Barber&Osgerbyという名前で自身のスタジオを設立。Vitraとともにティプトンやマリポサソファなど数々の製品を手掛けるほか、工業デザイン、家具デザインから建築までその仕事は多岐に渡る。
主催紹介:
◆Vitra(ヴィトラ)
1950年創業のスイスの家具メーカー。世界的なデザイナーの創造性と自社の開発力によって製品とコンセプトを生み出し、そのデザインの力を通してホーム、オフィス、公共スペースの空間の質の向上に貢献。またヴィトラキャンパスにおける建築やヴィトラデザインミュージアムでの展示、ワークショップ、出版物でも知られる。