[連載]『建築に近いと思えることへの実験ノート 001』tomito architecture冨永美保

(連載)建築に近いと思えることへの実験ノート 001

誰かが語ること、その会話のなかや、ふとした言葉の端に、その人が話す内容を越えた、状況や背景、経験のような何かが透けて見える事がある。

もちろん気分が変わるだけでも、同じことでもちがう言葉を使ったり、ちょっとしたニュアンスの差もあり得るので、人の話というのはあまり真剣に聞いても途方もない事もあるけれど、本質的に、その人自身が経験してきた(日々の)社会や環境、慣習や制度の一端が、その言葉のなまなましさやみずみずしさに内包されている。

会話やその結末を他の誰かに伝達する手段のひとつとして、『議事録』という方法がある。会議の内容を伝えるための媒体で、紙に、日時/場/誰が参加したか/話した内容などを細かく時系列で書く。

それにしても会話は生もので、先に話していた人の応答としてあるものなので、例えば笑っているのか、泣いているのか、怒っているのかで状況は違うし、言葉のありようや進み方も変わる。

会話の結果としての決定事項よりも、その過程の途中、どのような量で、どのようにふるまい、何を発したかが蓄積した時、会話の本質や目的が浮かんでくるのではと疑っている。

その応答が過程そのものを、空間の記述と併せて見てみることで、会話のラリーの隙間で眠っている何かに気付くことはできないかと、試している。

実験ノートまとめ

(実験はつづく)
文・画: 冨永美保 tomito architecture(トミトアーキテクチャ)

著者紹介
冨永美保(とみながみほ)。建築家(一級建築士)

1988年東京生まれ。芝浦工業大学工学部建築工学科卒業、横浜国立大学大学院Y-GSA修了。東京藝術大学美術学科建築科教育研究助手を経て、2014年に伊藤孝仁と有限会社トミトアーキテクチャを共同設立。現在、慶応義塾大学、芝浦工業大学、関東学院大学、東京電機大学、東京都市大学非常勤講師。

日常への微視的まなざしによってい環境を観察し、出来事の関係の網目の中に建築を構想する手法を提案している。主な仕事に、丘の上の二軒長屋を地域拠点へと改修した「カサコ/CASACO」、都市の履歴が生んだ形態的特徴と移動装置の形態を結びつけた「吉祥寺さんかく屋台」などがある。

関連記事一覧