[連載] 『ラ コリーナ近江八幡』―おにわさんコラム“ゆるふわ庭屋一如” 01

はじめまして。『おにわさん―お庭をゆるく愛でる庭園情報メディア』というウェブサイトを制作・運営しているイトウマサトシと言います。

26歳の頃から趣味で日本庭園をめぐりはじめ、日本全国津々浦々、約10年間で足を運んだ庭園の数は1,200箇所。
これまで巡った庭園は、現代風の庭園から荒廃・廃墟と化した庭園までさまざま。それでも地方のランドスケープや寺社仏閣や古い民家・武家屋敷をめぐっていると国内には有名でない数多くの“日本庭園”があることに気づかされます。

みなさまは『日本庭園』というとどこを思い浮かべますか?京都の庭園、日本三名園、都内の大名庭園。それらのように“きれいに整備され、美しい”庭園は一握り。
歴史的人物――たとえば、かの水墨画家・雪舟が造ったと伝わる庭園でも荒廃が進んでいるものもあるし、そのことを表立って伝えている人はそんなにいない。“美しくない日本庭園”には興味を示されないのが現状です。

でも知られなければ荒廃が進む一方。この現状をもっと知ってほしい。
それでも決して問題提起ではなく、“ハードルが高い”と思われがちな日本庭園というテーマをデフォルメして伝えられたら――そんな想いで立ち上げ、運営しているのが『おにわさん―お庭をゆるく愛でる庭園情報メディア』https://oniwa.garden/)です。

造園・植木の勉強をしていたわけではなく、本業はかれこれ約20年間WEBを仕事にしています。特徴は“プロではない”からこそ、批評的ではなく“ユーザー目線”で伝えていること。あとは世の中の寺社仏閣にはまだまだオフィシャルのウェブサイトやSNSがない場所がまだまだ多い。自治体の文化財情報にしか載ってない――そんな場所でもスマホで気軽に知ることができたらいいなー!それを自分で表現しているのが『おにわさん』というウェブサイトです。
インスタグラムも現在約6,000名の方がフォローしていただいています。よければお気軽にフォローしてください。

庭屋一如とは

そんな“庭目線”の自分ですが、庭園と建築は多くの場合切っても切り離せないもの。
名建築も、それは“周囲の景観やランドスケープ”との関係性によってより引き立たせられているものは少なくない、いやむしろルフタの《「好きな建築物」ランキング2019》で紹介されている建築のほとんどが “周囲の景観”が重要な役割を果たしている作品といえるのではと思います。

庭屋一如(ていおくいちにょ)ということば。これは2018年に亡くなられた数寄屋建築家/茶室研究者・中村昌生先生の提唱した《庭と建物が融合し自然と調和する境地》といった意味の造語です。

たてものは時に“庭”で差がつくこともある――そんなアイデア面でも、純粋に観光スポットとしても、興味を持つきっかけになってくれたら嬉しいな~と思い“ゆるふわ庭屋一如”というタイトルを付けました。

藤森照信さんの庭園観が味わえる、ラ コリーナ近江八幡

さて前置きが長くなりましたが、今回紹介するのは滋賀県近江八幡市の『ラ コリーナ近江八幡』です。
近江八幡に本社を置く菓子店『たねや』のフラッグシップ店で、建築・回廊などの設計を藤森照信さんと中谷弘志さんが手掛けています。2015年にオープン。

庭園を好きになったのとほぼ同時期、藤森照信さんの建築にも出会い衝撃を受けました。この場所のみならず、日本各地へ藤森建築を見に行っています。

2017年に水戸芸術館で開催された藤森さんの個展《自然を生かした建築と路上観察》ではラ コリーナがフィーチャーされていた部屋もありましたが、同時期に刊行された『磯崎新と藤森照信の「にわ」建築談義』での両氏のやりとりもとても面白い。

磯崎新と藤森照信の「にわ」建築談議
著者:磯崎新、藤森照信
出版社: 六耀社
本の詳細はこちら

その中で磯崎新さんが語られた一文のみ引用してご紹介。
《藤森さんは庭に使われてた軟らかい素材やら生の素材やらを持ちこんじゃった。ということは、庭が建築を侵食していくことに通じる。だから庭を建築の付属物にしていたのではなくて、庭が建築の中に入りこんできている。》(P.202)

藤森さんもこの本ではご自身の建築と庭とのありようについても多くのことを語られています。

ラ コリーナがすごいなと思ったのは、『ランドスケープによって人が集う場所になっている』ということです。
利便性を考えたら、駐車場とショップは近い方が良い。でもここは違う。一面に笹が植えられた園地をゆるやかに歩いて、メインショップ“草屋根”へ辿り着く。自家用車の姿が遮蔽・遮断されたその園地があるから、お客様も“非日常の空間”へと誘われる。

そして草屋根を抜けた先に広がる園地もよくある芝生広場ではなく、田んぼや農地という発想。“映える”ような目立つモニュメントが配されているわけではない。配されているのは“七つ石”と呼ばれている石。

この「遊べる園地じゃなく、中心に農地を置く」「その中に、日牟禮八幡宮と共に信仰され続けている八幡山へと向かう石組が配されている」という、日本庭園の伝統的な要素をこそっと入れ込んでいるのがニヤニヤしてしまうというかワクワクしてしまうというか。その石の名前も禅の庭っぽく“蓬莱山”“舟石”と命名されているものもあれば、“おにぎり石”という遊び心が垣間見える石も。

藤森さん監修のもと、ランドスケープの設計は重野国彦さんが担当。
そして管理には「たねや」自身が抱える農芸・造園部門が携わっているというコダワリの強さ。ラ コリーナの公式サイトに掲載されている下記の記事もあわせて読むととても興味深いです。

藤森先生とラ-コリーナの物語を読む (ラコリーナ日誌)

連なる〈七つ石〉を読む (ラコリーナ日誌)

緑一面の敷地内にメインショップの菓子店“たねや”“クラブ ハリエ”のほか、カフェ・レストランやギフトショップ、更には農園も。
訪れる前は「ショップを目的とされる方が多いのでは」という印象を勝手に抱いていたけど、実際足へ運ぶと“その園地・ランドスケープが一番お客様に楽しまれている”と感じた。それによって全国から人が集まるというこの感覚――とても新鮮で刺激的だった。まだの人、ぜひ訪れてみて!

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庭園info:
ラコリーナ近江八幡
La Collina Omihachiman, Shiga
▼公式ウェブサイト:
http://taneya.jp/la_collina/index.html
▼おにわさんでの紹介記事:
藤森照信さんが設計を手掛けた自然に溶け込む建築群と、重野国彦と共に作庭したランドスケープ。
ラコリーナ近江八幡の記事を読む

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文・写真:イトウマサトシ(from おにわさん)

著者紹介

イトウマサトシ(伊藤昌利)
1983年静岡県浜松市生まれ、京都在住。高卒。賞罰なし。東京で大手音楽出版社のWEBメディアのグロース、日本最大級の野外ロック・フェスティバルのWEBサイト制作、大手アート・フェスティバルやメーカー企業のWEBサイトのディレクターなどを担当。そのかたわら20代中盤から日本庭園にのめり込み中。好きが高じて2019年造園の職業訓練校を修了。ジュビロ磐田大好き。
https://oniwa.garden/

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