[連載] 『重森三玲庭園美術館』―おにわさんコラム“ゆるふわ庭屋一如” 02

(TOP画 提供:重森三玲庭園美術館)

こんにちは。『おにわさん―お庭をゆるく愛でる庭園情報メディア』というウェブサイトを制作・運営しているイトウマサトシと言います。
26歳の頃から趣味で日本庭園をめぐりはじめ、日本全国津々浦々、約10年間で足を運んだ庭園の数は1,200箇所超。現在サイトでは1,100箇所程の庭園を紹介しています。

第1回は『建築家のランドスケープ』を紹介しました。今回は日本庭園の大家のひとりを紹介。名前は知らなくてもこのトゲトゲしいお庭の作風、見たことある方いらっしゃるかもしれませんね。

庭園を、正面から見るか? 横から見るか?

『庭園』とひとことで言っても、さまざまな捉え方があると思っています。
たとえば
・「京都とかの観光の時に行く場所」(観光目線)
・「あの戦国大名が残した」(歴史・日本史目線)
・「寺社仏閣と付随するもの」(宗教目線)
・「四季のお花が見られる場所」(植物目線)
・「とりあえず公園や緑地好き」(緑地目線)
他にも地域の文化としての庭園(地域目線)、職業目線の庭園など色々あるのですが、今回紹介する重森三玲(しげもりみれい)の庭園は、“アート”目線で語られることも少なくない。自分がこの方の作品に初めてふれたのも、2011年に東京・ワタリウム美術館で行われた展覧会『重森三玲 北斗七星の庭_展』でした。

重森三玲について

(坪庭 提供:重森三玲庭園美術館)

1896年(明治29年)生まれで、出身は岡山県の現・吉備中央町。学生時代は日本美術学校で日本画を学び、その後は主にいけばなの道で頭角を現し「いけばな草月流」の創始者・勅使河原蒼風とともに「新興いけばな宣言」を起草(後に発表)。

やがて独学で学びはじめた日本庭園研究家としての活動が活発になり、氏が40歳になる頃から日本全国の古庭園の実測調査を開始。その数なんと500箇所!
そして43歳の時に自ら制作を手掛けた『東福寺本坊庭園(八相の庭)』は現在も氏の有名な庭園の一つであり、出世作にもなりました。ちなみに“制作を手掛けた”と書きましたが、庭の人はこれを“作庭”、“築庭”、“造園”などの言い方をします。そのデザイナー・ディレクター的存在が“作庭家”。

自分も、先のワタリウム美術館の展覧会で「こんな日本庭園があるのか」と驚いて、早速その年末年始に京都へ足を運びました。それが2012年のこと。今もうまく説明できるわけではないけれど、それ以前の時代の枯山水庭園(宗教性が根底にある芸術)と比べると自由でありアヴァンギャルドな庭園表現、現代アート性に惹かれ――(当然その中には“禅”や“茶の湯”の精神は込められているのだけれど)。
ちなみに。「みれい」という名前は世界的にも著名な画家 ジャン=フランソワ・ミレーから取られています。そんな部分からも芸術肌だったことがうかがえます。

自身で茶室の建築も手掛けた自邸『重森三玲庭園美術館』

(好刻庵 提供:重森三玲庭園美術館)

京都市左京区に、重森三玲の自邸だった建物内の書院と枯山水庭園、茶室を公開している「重森三玲庭園美術館」があります(要予約)。平安時代からの歴史を持つ京都の「吉田神社」。その社家より譲り受けた住居(江戸時代中期の建築)に、自ら庭園と茶室を造営したのがこの重森邸。そう、ここでは庭園のみならず茶室「好刻庵」の設計も手掛けています。

今年はもう過ぎてしましましたが、12月~3月中旬の間はこの「好刻庵」を内部に上がって見学可能。『桂離宮』の茶室「松琴亭」にインスパイアされて波模様を表現した襖絵をはじめ、襖の取っ手や欄間の意匠、釘隠しに用いている陶器などすべて重森三玲自身の作。氏の美意識を堪能できます。

(提供:重森三玲庭園美術館)

親しかったイサム・ノグチによる照明もある書院から眺める枯山水庭園は氏の晩年、1970年に作庭されたもので、苔とふんだんに用いられた“阿波の青石”(=徳島県で産出される、独特の青みがかった岩)によって、海とそれに浮かぶ島々が表現されています。
庭園に関する詳しい解説は、ぜひ訪れて館長・重森三明さんのご説明を聞いてみて!質問にもさまざまなエピソードを交えて答えてくれます。

石庭のいいところは、たとえば――冬場でも「花もないし紅葉が落ちてさびしい」ということはない。むしろ影の影響を受けにくくなって、石の組み方により表現された“庭園のデザイン”がよく見える。だから曇りの日がいい。雨が降ったら、石の色がより濃くなって映える。

現在は月曜定休・ほぼ毎日11時・14時の予約制公開(※2020年3月現在・他の予定がある日は予約不可)。大学生は100円引。予約可能日は記事最後にある公式サイトよりご確認ください。

茶人としても作庭家としても当時はあくまでアウトサイダーだった重森三玲。今となっては庭園ファンのみならず人気も高く、また作風を引き継いでいる“フォロワー”も多いけれど。500箇所の実測調査というインプットを怠らず、アウトプットの時には常識に囚われなかった、飽くなき創作意欲に満ちた尖ったクリエイターだった重森三玲の世界観は――別に庭園のことよくわからなくても、やはりカッコイイ。若い学生さん、クリエイターにぜひ観に行ってほしいなぁ。

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庭園info:
重森三玲庭園美術館
Mirei Shigemori Garden Museum, Kyoto

▼公式ウェブサイト:
重森三玲庭園美術館 | Shima/Islands |重森三玲邸庭園

▼おにわさんでの紹介記事:(+18点の写真はこちらから):
「重森三玲庭園美術館 | 現代/昭和の日本の代表的作庭家・重森三玲が自宅に作った枯山水庭園と茶室ほか、様々な作品が堪能できる空間。」
「重森三玲の庭園一覧」
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文・写真:イトウマサトシ(from おにわさん)

著者紹介

イトウマサトシ(伊藤昌利)
1983年静岡県浜松市生まれ、京都在住。高卒。賞罰なし。東京で大手音楽出版社のWEBメディアのグロース、日本最大級の野外ロック・フェスティバルのWEBサイト制作、大手アート・フェスティバルやメーカー企業のWEBサイトのディレクターなどを担当。そのかたわら20代中盤から日本庭園にのめり込み中。好きが高じて2019年造園の職業訓練校を修了。ジュビロ磐田大好き。
https://oniwa.garden/

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