• HOME
  • 記事
  • 特集
  • (大会レポート)トウキョウ建築コレクション2019「波及」(プレゼントあり)

(大会レポート)トウキョウ建築コレクション2019「波及」(プレゼントあり)

『トウキョウ建築コレクション2019 Official Book』を100名様にプレゼント

締切:2019年11月25日(月)受付分まで
提供:建築資料研究社
⇒ プレゼント申込はこちら

■■今年のテーマは「波及」

建築系の修士設計・論文のためのイベント「トウキョウ建築コレクション」(以下、トウコレ)は、今年で第13回目を迎えた。例年通り全国から修士設計と修士論文を公募し、非公開の一次審査を経て、設計展11点、論文展12点がそれぞれ選出された。設計展は、2010年以降から15名前後が選出されてきたが、昨年から選出者は11名となり、今年も同数の選出となった。第1回目から引き続き、会場は槇文彦設計の代官山ヒルサイドテラス。ヒルサイドフォーラムに、設計展の模型とプレゼンボードが、すぐ隣のギャラリー オン・ザ・ヒルに、論文展のパネルや本論、模型が展示された。

毎回、修士学生ならではの洗練されたプレゼンボード・模型が、本展の見どころのひとつとなっている。一時期に見られた巨大模型ブームは落ち着き、それぞれの設計に合ったプレゼンテーションが総合的に選び取られており、個性豊かな作品が会場に並んだ。また、完成した建築を見せることよりも、プロセスや建築の仕組みにプレゼンテーションの比重が置かれている点が、修士設計展の特徴ともいえる。ノルウェーでのフィールドワークや住民からのヒアリングを手描きドローイングで大判のパネルにまとめた作品や、同潤会アパートの綿密なリサーチと時間軸での変容をまとめた作品、谷中の空きスペースに住み込みで建築する作品など、膨大な情報量のプロセスを独自の切り口でまとめた作品が展示会場で目を引いた。また、今年はオープンエンドな設計作品も多く、建設途中さながらの迫力ある模型が会場内で存在感を発していた。

また、会期中にはヒルサイドプラザにて、第一線で活躍する建築家やデザイナー、研究者を迎え、いくつかのプログラムが催された。今年のプログラムは、イベントのテーマに沿って建築家やデザイナーが鼎談する「特別講演」、設計・論文それぞれの各賞を決める「設計展公開審査」と「論文展公開討論」の3企画。各年ごとに、アディショナルな企画を行うこともあったが、今年は企画数を絞り、原点回帰的なイベント内容となった。

ちなみに、トウコレでは毎年テーマが設定されている。今年のテーマは「波及」。本来は学位取得のための修士設計・論文を、こうしたコンペティション・展示会に出す意味について、あらためて問いかけるようなテーマである。そういう意味でも、今年のトウコレは原点を見直すことが、強く意識されていたといえるだろう。

■■建築のもつ波及力――特別講演

家具デザイナーの藤枝和子氏、建築家で研究者の松田達氏と門脇耕三氏の3名を迎えた特別講演は、3月1日(金)に開催された。自身の活動や最近の関心についてのプレゼンの後、「波及する建築とは」というテーマで鼎談を行った。

松田氏は、「建築は波及すべきものなのか」と題したプレゼンを行い、建築単体の波及効果は限定的であることや、地域や環境といった物理的コンテクストだけでなく、建築を取り巻く概念的コンテクストによる波及効果も重要ではないかということを語った。さらに、建築と都市が断絶している現状を指摘し、その境界をつなげることが波及につながるのではないかと話した。そうした議論を扱う試みの一環として、松田氏が携わってきた「建築系ラジオ」「建築夜学校」といったオルタナティブメディアを紹介した。

門脇氏は、「元速水医院」「つつじヶ丘の家」「門脇邸(自邸)」といった近作の紹介を通して、「波及」へと即興的に話をつなげていった。「門脇邸」は、完結的な建築を目指さず、さまざまな都市的コンテクストを取り込んでゆき、それらをバラバラに統合するつくり方をしたという。そのことで、建築が空間や敷地といった領域を超えたひろがりをもち得ており、それが波及する建築のヒントになるではないかという提起であった。また、近年の学生の設計のモードについても言及。プログラムや図式の実験が多かった10年前に比べ、物理的な建築の実態から身近な問題を実践的に捉えたり、世の中に小さく介入していく姿勢の作品が増えてきたことに共感を示した。

藤江氏は、約50年にわたる自身の設計活動を駆け足で紹介していった。「代官山ヒルサイドテラス」や「ぎふメディアコスモス」など、著名な建築家とのコラボレーションが多い藤江氏。設計の際には、建築家の作風を汲み取ることはせず、訪れた人に、自分が感じたその空間の良さを感じてもらうことを第一に意識していると話していた。家具の形や使い心地、座り心地といった通常の家具デザインに求められることだけでなく、その場所や建築の魅力を、訪れた人に提案する造形が自身のテーマだという。

鼎談では、設計展の作品の傾向が話題となり、登壇者全員から、他律的な姿勢を感じる作品が多いという感想が上がった。門脇氏は、自身が編集に関わった『SDレビュー2017』(鹿島出版会、2017年)で、「アドホック」をテーマにした企画を起こしたことを挙げ、2年後にこうして学生の多くが共感を示した設計を行っていることに喜びを表した一方、無自覚な他律に染まる危険性と、〈建築―都市―批評〉に同時に足をかけ、自律かつ他律であることの重要性を語った(ちなみに、SDレビューもトウコレと同じく、代官山ヒルサイドテラスが会場となっている)。松田氏は、馬場正尊の「工作的都市へ」(『建築討論』日本建築学会、2019年)というインタビューを紹介し、ローコストでDIY的につくられる「工作的都市」という現代的なモードとの共通点を指摘。その一方で、イギリスのAAスクールなどでは自律性に回帰する例が見られるとも話した。藤江氏は、そうした話を受け、リサーチなどの必要性に理解を示しつつ、建築家としての自分が何をしたいのかが伝わってこない、と危機感を端的に言葉にした。

動画はこちら

■■他律と自律の狭間で――設計展公開審査会

トウコレのメインイベントともいえる、設計展のグランプリを決定する公開審査会は3月2日(土)に開催された。当日は、ヒルサイドプラザで出展者によるプレゼンののち、展示会場で巡回審査をし、元の会場へ戻って審査・講評を行う流れで進行した。審査員長を内藤廣氏が、審査員を大野力氏、坂東幸輔氏、山﨑健太郎氏、冨永祥子氏(モデレーター)が務めた。

審査では、各審査員が3作品を選び、それぞれ感想を述べることから始まった。審査員から注目を集めたのは、法政大学の阿部りささんの「盲目から空間を綴ること――ブラインド・アーバニズム」と、東京理科大の照井飛翔さんの「Life of an architect」。阿部さんは、目の見えない障がい者が都市を体感するために凹凸や質感、匂いなどで都市のエッジを強調する仕組みを提案。審査員からはその視点の新しさが評価された。照井さんは、さまざまなライフイベントを設定した建築家の人生ゲームをつくり、それを遊ぶことで自身の建築家としての人生を仮定し、自邸兼事務所を設計した。確信犯的に他律的な姿勢や、人生ゲームという目の付け所が話題になった。

また、今年の出展作品は、単体で強い形の建築をつくるというよりも、「誰かと共同でつくる」「DIY的につくる」「ブリコラージュ的につくる」といった提案が多く見られた。そのため、建築の形づくりに真正面からアプローチしていた東京理科大学の河鮱公晃さんの「密度の器」が相対的に際立った。架構システムからオフィスビルを再編する提案で、巡回審査では形がある故に審査員からのツッコミも多かったものの、審査会では肯定的な文脈で度々言及された。

さらに、そうした全体的な傾向(審査員の趣向が反映した部分もあるが、一次審査からすでにそうした案が多かったという)に対して、奇しくも前日の特別講演と同じく、「自律/他律」という言葉で議論が進んだ。内藤氏は、「他律」という言葉はつまり、「自分を規定しているのは自分以外である」と言っているようなものだと指摘。上手く自分が隠され、人生ゲームや組み合わせにすり替えられているが、それだけではないはずだろうと話し、学生たちのなかの「自分」を聞き出そうと努めていた。

さまざまな議論を経て、最終的にグランプリに輝いたのは、東京藝術大学の伊達一穂さんが出展した「patchwork house」だった。関東大震災後に建てられた同潤会の4戸重ね建て住戸をテーマに研究を行った上で、自身が住み込みで改築を行い、周囲の木密地域を更新していくというプロジェクト。テーマ設定やリサーチが優れていたことに加え、建築デザインとしての完成度も評価された。

総評では、内藤氏よりあらためて、「自分」について言及がなされた。「今の若い世代の人たちが無感情なわけでなく、みんな隠すのがうまくなっている。しかし、何かに心を奪われる経験をした瞬間に建築の一番大切なものが現れるのであり、建築家はそれを経験し、人に語れる必要がある。それを覚えていてほしい」という、熱いエールで公開審査会が締められた。

動画はこちら

■■論文は社会とどう向き合うべきか――論文展公開討論会

論文展の公開討論会はその名の通り、異なる分野の研究者が一同に介し、議論を交わすことに重きが置かれている。そのため、賞を決めるための設計展・公開審査会とは趣旨を異にしており、多方向の闊達な議論が見どころだ。

公開討論会は会期最終日の3月4日(日)に開催。審査員長を林立也氏が、審査員を安藤直見氏、小岩正樹氏、多田脩二氏、篠沢健太氏(モデレーター)が務めた。当日は、出展者のプレゼンの後、各審査員が3本の論文を選出し、それぞれの論文に対して審査員や学生相互に討論がなされ、最後に各賞を決定した。

例年、裾野が広く議論のしやすい建築史やフィールドワーク研究などの計画系論文の応募・一次審査通過者が多いものの、今年は九州大学の奥村光城さんによる竹を用いたテンセグリティ構造の研究や、東京大学の堤遼さんによる音環境の空間論なども加わり、幅広い議論が行われた。なお、今回は12人中7人が東京大学からの出展者と、少々珍しい状況であった(一次審査は大学・名前を隠して審査をしている)。

討論ではまず、篠沢氏が今年のトウコレのテーマ「波及」を引き合いに出し、それぞれの研究から何が波及していくのかを問いかけた。通常の学会発表と異なり、まったく違う分野の学生と研究者が集まっているトウコレでは、誰に向けて何をアピールするかが重要になるという。

それを受け、ガーナにおける非正規市街地の研究を出展していた大阪大学の岡田まどかさんは、すでに波及したもの――「非正規市街地」のように偏向的なラベリングされたものを問い直すことを意識したと発言。重度障がい者が入居可能なグループホームに関する研究を行った東京大学の小津宏貴さんは、「なぜ波及しないか、どこかに矛盾がないかを見極めることも重要で、その視点からグループホームが波及する際バリアになっていることを明らかにできた」と語った。議論のなかで小岩氏は、修士論文はインタラクティブなものであるべきで、「自身が波の中心となるだけでなく、その波を受ける側の視点も意識してほしい」と語った。そうすることで、研究によって生じた波は、将来必ず自分にも返ってくるという。

議論が進むにつれ、それぞれ「波及」というテーマをどのように読み替えているか、どのような対象に向け、どのような姿勢で研究に臨んでいるかが明らかになった。四谷コーポラスを中心として区分所有法以降の集合住宅の研究を行った東京大学の植竹悠歩さんの研究は、直接何かに影響を与えるというよりも、長期的な波及効果を見据えた基礎研究だという。緻密なリサーチと、自身のアプローチをよく伝えるプレゼンが評価され、植竹さんは最終的にグランプリを獲得した。

討論会のなかで、「小さくても、人に影響を与えられる研究が良い研究ではないか」という意見が挙がった。トウコレのようなイベントに応募するということは、社会に向けて発信したいことがあるはずだ。今回の討論会は、そうした出展者自身に内在するものの、明確に言語化されていなかった部分を語る機会となったのではないだろうか。

動画はこちら

はじめに今年のトウコレは原点回帰的だと書いたが、そうなった理由のひとつに、実行委員長を含む実行委員のほとんどが学部1–2年生だったことがある(通常は修士1–2年が行うので、とても異例)。建築を学び始めたばかりの彼らは、今や当たり前になっている学生向けコンペティションの存在意義に素朴な疑問をもち、「波及」というテーマに思いを込めた。その素朴で切実な投げかけは、期せずして例年以上にイベント中に言及され、議論のきっかけになった。今年のトウコレでなされたさまざまな議論が、来年以降の応募者や実行委員たちにどのような影響を与えるのか。またそれがどのような形で社会の中で表出するのか。トウキョウ建築コレクションという場の波及力についても、改めて考えさせられ、また期待したくなるイベントとなった。

全国修士設計展受賞者

【グランプリ1点、審査員賞5点】

グランプリ pachwork houses
伊達一穂(東京藝術大学大学院 北川原温研究室)
大野力賞 盲目から空間をつづること
阿部りさ(法政大学大学院 渡邉眞理研究室)
冨永祥子賞 人工大地の様式
丸山航(東京理科大学大学院 郷田桃代研究室)
内藤廣賞 Made by lriya
村井陸(東京藝術大学大学院 中山英之研究室)
坂東幸輔賞 まちの手記を描く
小黒日香理(東京藝術大学大学院 北川原温研究室)
山﨑健太郎賞 Life of an Architect
照井飛翔(東京理科大学大学院 垣野義典研究室)

 

全国修士論文展受賞者

【グランプリ1点、審査員賞5点】

グランプリ 四谷コーポラスを軸とした我が国における区分所有集合住宅の成り立ちに関する研究
植竹悠歩(東京大学大学院 大月敏雄研究室)
安藤直見賞 伸縮性膜材を引張材とするテンセグリティ構造物「MEMBOO」の設計と施工 – 数学的理論を実践へつなぐ手法の開発 –
奥村光城(九州大学大学院 末廣香織研究室)
小岩正樹賞 江戸東京における都市空間・境内空間
吉川初月(東京藝術大学大学院 光井渉研究室)
篠沢健太賞 「非正規市街地」における土地取引形態と変遷からみる所有と利用の実態に関する研究ガーナ・アクラのラ市域 Abese 地区土着コミュニティを対象として
岡田まどか(大阪大学大学院 木多道宏研究室)
多田脩二賞 復興支援としてのデザインビルド教育の可能性―エクアドル地震被災地チャマンガの Centro Cultural プロジェクトを例に―
川崎光克(東京大学大学院 清家剛研究室)
林立也賞 新クメール建築の形態的特徴に関する研究 表層の自律的展開と環境性能の評価

谷津健志(東北大学大学院 石田壽一研究室)

 

写真提供:内野秀之 稲澤朝博

記事:山道雄太・平尾望(フリックスタジオ)

概要

建築が地域やその周りの環境にどのような影響を及ぼすかが重要視されています。そして、どんな効果を生むことができるか新たな視点や議論を通じて、建築が持つ波及力を考える場を目指し、「波及」をテーマに掲げた、13年目の2019年大会の模様を伝える公式記録集。

軸となる「全国修士設計展」「全国修士論文展」そして「波及とは」をテーマにした特別対談を収録。

2019年7月16日発売予定

発行:株式会社建築資料研究社
編・トウキョウ建築コレクション2019実行委員会
判型:A5 判
頁数:320
定価:本体2000円+税
発行年月:2019/07
ISBNコード:978-4-86358-644-4

本体2000円円+税 予約購入はこちらから

関連記事一覧