庭師のクリエイティビティが宿る 冬の風物詩・しめ飾りづくりに込めた想い[庭師の手仕事/『庭』NIWA編集部]

TOP画 桜花園大阪が手がける「素朴なしめ飾り」。左上から時計回りに「inosisi」「nezumi」「sen」「tori」「ikada」「inu」「tawawa」。

庭師のクリエイティビティが宿る 冬の風物詩・しめ飾りづくりに込めた想い

つくり手:桜花園(大阪)

新年を彩る庭師の冬仕事

門松、しめ飾りなど。日本には年の瀬に氏神様を祀り、新年を迎えるため、家や店舗などの門や玄関先に独自のしつらえを飾る風習がある。地域によって違いはあるが、昔からこうした正月飾りの制作は庭師の冬仕事の一環であった。 門松やしめ飾りに使用する松竹梅や藁は庭師が普段から扱う庭木や庭づくりの材料であり、扱いが慣れていることも彼らが正月飾りづくりを担っている理由のひとつだろう。 現代の住宅事情により、門松を飾る家は少なくなったが、いまのライフスタイルや気分に沿ったしめ飾りが登場し、SNSやEC販売の普及によって地域という枠を超えて、今また注目を集めている。専門誌「庭NIWA」の次号No.242では庭師の感性から生み出された正月飾りを特集する。 今回は発売に先駆けて、特集にも登場する桜花園大阪の「素朴なしめ飾り」を紹介する。


桜花園では畳づくりの際に出る端材をほどいたい草を綯ってしめ縄をつくる。

●役目を終えたモノに新たな命を吹き込む

 大阪府羽曳野市の閑静な住宅街の一角に、古道具店と小庭を専門に造園業を営む桜花園はある。古道具店は夫・菊田洋介さんが、庭づくりは妻・菊田祥子さんが行い、夫婦で店を切り盛りしている。

桜花園が正月のしめ飾りづくりを始めたのは2011年の暮れのこと。「この年、東日本大震災があったことからお正月を華々しくお祝いする気持ちではなく、かといって何もしないのも変だと思い、しめやかな正月飾りで新年を迎えようとつくり始めたのが『素朴なしめ飾り』です」と祥子さんは話す。

菊田夫妻は奈良県の山間部で藁細工をする農家に出向いて藁の綯い方を学び、独学でしめ繩づくりを続けてきた。桜花園の『素朴なしめ飾り』のこだわりは、身の回りにある役目を終えたものを材料として使い、しめ飾りとして再生させることで一歩先へモノの命を伸ばすことだ。

お隣堺市の畳屋から畳づくりの際に捨てられる畳表の端材を分けてもらい、解いたい草を綯ってしめ縄にする。またその他の材料も、古道具の引き取りで出てくる麻紐や古布や飾りに使う無農薬栽培の鷹の爪は庭で忌避剤として使用している物、ヒノキは庭の剪定などで出たもの等を使う。

「地域によっては正月の間だけ飾ってどんど焼きなどで焼いてしまうものもありますが、本来の役目を終えたものが少しの間だけでも新たに姿を変えて新年を迎えるしめ飾りとして暮らしに彩りを添えてほしい。そんな思いで材料を集めているんです」と祥子さん。


2021年丑年のしめ縄「usi」3,850円+税。購入ついては桜花園のインスタグラム(oukaen_osaka)参照。

●シンプルで愛着の湧く型が人気の干支のしめ飾り

桜花園では、毎年3〜4つの型のしめ縄飾りをつくっているが、中でも人気が高いのが2016年からつくり出した干支がモチーフのしめ飾りである。「2017年が自分の干支である」酉年だったこともあり、何気なく酉のしめ飾りをつくってみようかとつくり始めたのが干支のしめ飾りづくりのきっかけです。

酉年と戌年は表現しやすい形だったのですが、亥年の時は悩みましたね。そこで始めて『見立てる』という手法を取り入れて造形に挑戦ました。一度やりはじめたからには十二支に挑戦したいけれど、『辰年はどないしよ』と今からヒヤヒヤしています」と洋介さんは笑う。

毎年、夫婦で干支のしめ飾りのアイデアを出し合い、実際につくってみてつくりやすさやデザインを考慮して型を決定する。毎年店の一角や別の店舗、近くの神社仏閣などを会場にしめ飾りのワークショップを行っており、女の人でも子どもでもつくりやすい形であることが重要なポイントだ。

「今年はコロナの影響で、直前まで行う予定だったワークショップが中止になってしまいました。とても残念ですが、またこの状況が収束したらワークショップを再開することを願っています」と祥子さん。


桜花園が初めて干支のしめ縄づくりをした時の酉年のしめ縄。

しめ縄づくりに使用する祥子さんの道具。

●SNSを通じて全国各地から注文が相次ぐしめ飾り

インスタグラムを通じて、桜花園の干支のしめ飾りは年々注目が集まっている。しめ飾りをつくり始めた当初は、近所だけで販売していたが近年は問い合わせが増えたこともあり、オンライン販売も開始。日本各地から注文が相次いでおり、遠いところでは鹿児島県の喜界島からも注文があったという。

「近年は干支のしめ飾りだけで150個制作していて、その他の型をすべて合わせると400個近くつくってますね。11月終わりから12月は仕事の合間を縫って黙々と縄を綯う生活ですよ」と洋介さん。

「もともとは氏神様を祀るため、その地域だけのものだったしめ縄やしめ飾りが、インスタグラムを通して自分が行ったこともない場所の知らない人が見て、気に入ってもらって旅立っていく、というのはなんとも不思議な気持ちです。でも自分達がつくったものが全国各地のお正月を彩っているというのは素直にうれしい。しめ飾りづくりは大変ですが、手に渡った人のことを考えながら縄を綯っています」桜花園のしめ飾りの魅力は、シンプルな造形ながらも愛着と親しみが湧く素朴な味わいにある。

干支に見立てたしめ飾りのフォルムに、菊田夫妻の遊び心と新しい年を幸せに迎えてほしいという願いが宿っている。

2021年1月1日全国発売の季刊「庭NIWA」No.242の特集「庭師の手しごと」では、桜花園大阪をはじめ、宮城、長野、京都の庭師4組の冬仕事を紹介する。

普段は石や木を使った庭づくりを行う面々による繊細かつ多彩な造形力を駆使した門松、しめ飾り、藁ボッチ、幹飾りは必見だ。日本の伝統を伝承しながら、現代のライフスタイルに転用したクリエイティブの数々は、建築やインテリアデザインを学ぶためのヒントがつまっている。

取材・文=梶原博子
撮影=近藤泰岳

データ
季刊「庭NIWA」2021年春号 No.242
発売:2021年1月1日(全国書店発売)
発行元:建築資料研究社
値段:2,800円+税

プロフィール


菊田洋介(左) 桜花園 大阪 店主 /菊田祥子(右) 桜花園 大阪 植栽

菊田洋介(1981年大阪府羽曳野市生まれ。)
菊田祥子(1982年神奈川県大磯町生まれ。)
京都造形芸術大学環境デザイン学科ランドスケープデザインコース2人共、同学科同コース卒
菊田祥子は、神奈川県 大阪 の造園/県立公園/園芸店勤務を経てフリーランスとして「小庭屋」を開業、菊田洋介は神奈川県葉山の桜花園で修行後2016年より古道具と小庭「桜花園大阪」を開店 。
有機的で大衆的な園藝を軸に小庭植栽を行い、古道具が犇く店舗では草木の苗や季寄せ鉢などを販売。庭/食/あそびをボーダーレスに、化学肥料や農薬に頼らない植栽計画を大切にしている。 
〒583-0865 大阪府羽曳野市羽曳が丘西3−3−27
Tel.0729-26-5188
https://r.goope.jp/oukaen

関連記事一覧