インターンシップ奮闘記 in France 2

夏の事務所は、ひっそり閑。

写真・イラスト・文 橋本尚樹

今春より、フランス・パリのATELIERS JEAN NOUVEL[ジャン・ヌーヴェル設計事務所]の研修生になった僕は、今ちょうど、スイスのプロジェクトのヴォーリューム・スタディをしているところだ。
事務所(AJN)には20人くらいの所員と、その半数くらいのインターン生が働いている。

 ▲ ロシアのコンペでヴォリューム・スタディ用につくった模型。

 

夏はみんな休暇をとってパリからいなくなってしまうから、ここAJNも8月はほんとうに人が少ない。一番ひどかった週は、それこそ全部で10人にも満たない人数でひっそりと稼働していた。

事務所はパリの中心部から北東、街の中心を流れるセーヌ川の北側にある。僕は今、川の南側に住んでいるので、毎朝バスでセーヌ川を渡る。地下鉄よりも時間はかかるが、通勤はバスがいい。セーヌ川を渡る橋からの景色は、パリに住んで5カ月が過ぎる今でも新鮮で、この街で生活している喜びを感じさせてくれる。

さて、事務所の話に戻す。

これまでに携わったプロジェクトは全部で3つ。はじめがスイスの設計競技(以下コンペ)、次がロシア・サンクトペテルブルクのコンペ、そして今関わっているのが、これもまたスイスのコンペだ。決してAJNがコンペだけをしているわけではないが、たまたま全てコンペにあたった。

今取り組んでいるスイスのプロジェクトは、例外的にわずか5人。日本人のデザイン責任者の下に、フランス人とドイツ人の所員が1人ずつ、僕のほかにドイツ人のインターン生というチームだ。一方、ロシアのコンペの時は、フランス人の責任者の下、そこにポーランド人と韓国人と中国人とロシア人(通訳)も1人ずつ加わり、さらに提出前にチームが膨れ上がって、結局15人程で応募案を仕上げた。

ロシアのコンペ・チームは大きいチームだったが、よくオーガナイズされ最後まで集団として合理的に機能していた。まずは、デザイン責任者を中心にデザインを議論する。敷地の地理的特徴、歴史的・文化的背景、将来的な発展について、さまざまな要素を分析し、デザインをする上での基礎知識を蓄える。そこにジャン(J.Nouvel)のスケッチがはらりと舞い降りる。そこからまた議論する。模型をつくって、3Dを組み立てて、図面を引いて。リーダーがスケジュールを組み、仕事を各自に分担し、細かな指示を与える。チームの一人一人は得意な分野を生かし、責任をもって自分の仕事を担当する。国籍も年齢もばらばらな人々が、集団で同じ方向を向いてものづくりをするというのは、言葉で理解する以上に感慨深い光景だ。そうやってつくり出された建築を見ると、個人の努力では決して到達できない場に到達し得る、と素直にそう感じた。

またそれとは別に驚かされたのは、建築について話すなら、どこの国の人間とでもあまりに簡単に話が通じることだ。何の不便もなく仕事ができるのはいいのだが、普段設計で使うPCのソフトウエアの話から、どんな建築に興味があって、どんな本を読んでいるかまで、ほとんど大差がないのには驚いた。そして何とも気味が悪かった。アフリカで建築を学んでいた友人から『新建築』誌のコンペの話を聞いた時は、最初、「シンケンチク」という僕の知らないアフリカの建築家の話だと思った。全く冗談ではない。

進行中のスイスのプロジェクトは小さいチームなので、全体をよく把握しながら仕事ができ、非常に充実している。いよいよ締切りまで残り1カ月を切った。国籍も年齢もばらばらなこのチームで、これからどんな建築を生み出せるか。僕自身全く想像もつかず、楽しみでならない。

ハシモト・メモ

パリの過ごし方
コンペ提出前の忙しい時期を除けば、仕事は夜の7時に終わります。また春から夏にかけてのぱりはとても日が長いので、仕事が終わって2~3時間は明るいままです。その時間を使って、事務所の先輩や友人と、ダンスを観に行ったり、オーケストラやオペラや映画を観に出かけたりします。それは日本の設計事務所に勤めていると、時間的にまず考えられないことです。中でも一番感動したのは、小澤征爾さん指揮のオーケストラを聴きに行ったこと。今でもその日の音楽を思い出しては、自分の制作の励みにしています。こんなふうに、週に2度3度と劇場やホールに足を運ぶことも珍しくありませんでした。
劇場の設計をしているのに一度も劇場に足を運んだことがないというのはやっぱりおかしい。本物の空間とそれを体験できる環境が、物理的にも時間的にもあるということは、ここで生活する大きな魅力です。

プロジェクトチームの構成
通常、デザイン責任者が一人、その下に実際にチームをまとめるリーダーが一人つきます。そして、そこに数人の所員と僕のようなインターン生が配置されます。

インターン生の仕事
具体的な作業は日本と大差なく、僕は3Dを組む以外は、何でもやりました。模型をつくって、CADで図面を描いて、面積計算をして、プレゼンテーションのレイアウトをして、とインターンの仕事はよく動きます。そんな中、日本人は模型を大切にすると気づきました。

PROFILE

Naoki Hashimoto

1985年愛知県岡崎市生まれ。京都大学時代に、ヨーロッパ、アジア、北南米を旅する。2008年3月京都大学工学部建築学科(竹山聖研究室)卒業。「せんだいデザインリーグ2008 卒業設計日本一決定戦」で「日本一」を受賞。2008年4月~東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程(藤井明研究室)。2009年4月よりフランス・パリのAJN(ATELIERS JEAN NOUVEL)にて研修中。平成21年度ポーラ美術振興財団在外研修員。
(写真はChadi先輩と筆者/右)

建築系学生のためのフリーペーパー「LUCHTA」12号(2009年9月30日発行)より

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