「世界一幸せな国フィンランドと私たちのおつきあい」小林恭 + 小林マナ[SADI定例講演 2020年8月特別企画]

SADI定例講演(2020年8月特別企画:オンラインセミナー)

「世界一幸せな国フィンランドと私たちのおつきあい」

講師:小林恭 + 小林マナ(インテリア・デザイナー、設計事務所ima主宰)

独自の感覚でフィンランドの空気感を実現

年に5~6回、北欧関連の建築家やデザイナーを招いて、講演会を開催してきた北欧建築・デザイン協会(SADI)。2019年末以降、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な感染拡大の影響で開催を見合わせていたが、長時間の在宅を余儀なくされている人々や普段は来にくい地方・海外在住者の参加と在北欧会員からの情報発信も同時に狙い、初のオンライン講演会を開催することになった。

8月講演には、日本でも人気のフィンランドのファブリック・ブランド、Marimekko(マリメッコ)の国内外の店舗設計などを手がけるインテリア・デザイナーである、設計事務所imaの小林恭 + 小林マナさんが登壇。マリメッコ、LAPUANKANKURIT(ラプアンカンクリ)、Lumi(ルミ)、Johanna Gullichsen(ヨハンナグリクセン)といったフィンランド・ブランドの国内外店舗や見本市会場の展示ブースをはじめ、各種店舗のインテリア・デザインを中心に、幅広いデザインを手がけ国内外で活躍中だ。

店舗の設計では、
① ブランドのイメージをわかりやすく伝える空間の模索
② 敷地や場所を生かしたコンセプト作り
③ 店員や来客の使いやすさと居心地のよさ
をもとに、独自のバランス感覚やユーモアで時代性を表現することを心がけているという。

◆フィンランドを感じるデザインとは


『marimekko マリメッコ』展の会場構成(東京都、青山スパイラル、2005年)

1997年にはじめてフィンランドを訪れた時、「建築空間での独特の白の使い方が印象的だった」とマナさんは言う。近年の作品の紹介に続き、2005年から2015年にかけて手がけたマリメッコの30店舗と、その経緯を紹介してくれた。

最初は、つきあいのあったマリメッコの日本代理店を通しての依頼から始まった。表参道店(日本1号店、2006年)の設計に先立ち、『marimekko マリメッコ』展の会場構成(東京都、青山スパイラル、2005年)の最終承認を得るため、本国フィンランドへ飛んだ。当時のマリメッコCEOキルスティ・パッカーネンは、模型を見ると飛び上がって喜び、即時に了承。小林さんたちが準備してきたプレゼンテーションは不要となった。世界的な企業でも感覚を重視する、フィンランドらしい逸話である。

その際、ヘルシンキ店を視察し、マリメッコのデザインと歴史を猛勉強。小林さんたちは、自分たちの抱くフィンランドとマリメッコのイメージを固め、それをもとに店舗デザインを開始した。


マリメッコ表参道店(日本1号店、2006年)、タイルの床のスペース。

◆現地で入手しやすい材料を生かして

「本当に日本に合うマリメッコとは?」と自問自答を繰り返し時間をかけて生まれた表参道店(日本1号店、2006年)は、マリメッコの生地からモチーフを引用したタイルやレンガの床など、随所に多種多様な素材や手法を凝らした印象的な店舗に仕上がり、国内で注目を集める。続く、素材を絞ってシンプルにまとめた大阪の南船場店(日本2号店、2006年)を「フィンランド人として懐かしい。フィンランドを感じた」と本国フィンランドの首脳陣が大いに気に入り、マリメッコの世界展開に際してimaが海外旗艦店の設計を担当することになった。


マリメッコ表参道店、レンガの床のスペース。


大阪のマリメッコ南船場店(日本2号店、2006年)。

白い空間とコンクリートの床で直線的なデザインのドイツのベルリン店、古材の入手と素材感に苦労したスウェーデンのマルモ店(2010年)、本国ヘルシンキ店、コーヒーの飲める空間を備えたニューヨーク店(アメリカ合衆国、2011年)、古いビルの中のシドニー店(オーストラリア、2012年)、ビルの外壁全面に派手なバナーを付けた香港店(中華人民共和国、2012年)など、次々とデザインしていった。


マリメッコのベルリン店(ドイツ、2010年)。


マリメッコのマルモ店、外観(スウェーデン、2010年)。

マリメッコのマルモ店、内部。

マリメッコのニューヨーク店(アメリカ合衆国、2011年)。©Nacasa & Partners Inc.

マリメッコのシドニー店(オーストラリア、2012年)。

マリメッコの香港店01(中華人民共和国、2012年)。

マリメッコの香港店02(中華人民共和国、2012年)。
マリメッコの香港店03(中華人民共和国、2012年)。
マリメッコの香港店04(中華人民共和国、2012年)。
マリメッコの香港店05(中華人民共和国、2012年)。
  • マリメッコ表参道店、レンガの床のスペース。

◆北欧と日本に共通のエッセンスが


『インテリアライフスタイル2015』展の全体会場構成(東京ビッグサイト、2015年)。©Nacasa & Partners Inc.

2015年以降、東京ビッグサイトでの展示会で全体の会場構成や、フィンランドのテキスタイル・ブランド、ヨハンナグリクセンの展示ブース、バッグ・ブランドのルミ、テキスタイル・ブランドのラプアンカンクリなどの展示ブースのデザインを担当。

リネンや織物など肌ざわりの良さが持ち味のラプアンカンクリの展示ブースは、のれんのように吊した生地を触りながら通路を進む空間構成。同じテキスタイル・ブランドでもマリメッコとは全く違い、シンプルでやわらかく、どこか和の香も漂う。この後、ラプアンカンクリのヘルシンキ店(2019年)をはじめ国内外店舗のデザインを数々手がけることになった。


ラプアンカンクリのヘルシンキ店(フィンランド、2019年)。

ラプアンカンクリの展示ブース(『Salon Maison et Objet』展示会、フランス、パリ、2017年)。

その他にも、マリメッコのテキスタイル・デザイナーである石本藤雄の『石本藤雄 布と陶――冬』展(東京都、青山スパイラルガーデン、2012年)や『太宰府、フィンランド、夏の気配。――実のかたち』展(福岡県、太宰府天満宮、2018年)、鈴木マサルの『鈴木マサル傘』展(東京都、青山スパイラルガーデン、2014年)をはじめとする展覧会の会場構成、店舗設計、住宅設計に至るまで、多岐にわたる仕事を披露。いずれも工夫され、きめ細かく設えられた空間を実現したことが伝わってくる中身の濃い内容であった。

中でも、参道の鳥居に吊されたマリメッコの代表的なテキスタイル・パターン『ウニッコ』のシックな色合いの布地が風に揺らめく、福岡県の太宰府天満宮で開催された『フィンランド テキスタイルアート』展(2012年)の逸話は、特に印象的だった。フィンランドのアートに備わる明るさと暗さとの二面性を踏まえ、外はポップに内部はシックに整えたというインスタレーション。日本の伝統の権化のように思われる太宰府天満宮の宮司が、フィンランドのテキスタイルにいたく共感を覚えたというのに驚かされた。

『フィンランド テキスタイルアート』展の参道のインスタレーション(福岡県、太宰府天満宮、2012年)。©Nacasa & Partners Inc.

共に『フィンランド テキスタイルアート』展の室内インスタレーション(福岡県、太宰府天満宮、2012年)。

◆人とのつながり、自然の大切さ

imaの事務所兼自宅の内観、窓から公園の緑が見える(2016年)。©Nacasa & Partners Inc.

「フィンランドと関わって、友人やつながりが増え、いろいろなことを学んだ」と小林さんたちは言う。そして「自然が身近にあることがいかにすばらしいか。自然の重要性にあらためて気づき、人生が変わった」と。東京の井の頭公園脇に設計した事務所兼自宅は、自然を身近に感じるフィンランドの暮らしを思い起こさせる。

講演後は、質疑応答に続き、任意で一般参加者も含めた懇親会を実施。フィンランド在住の会員が歩きながらヘルシンキの街を生中継し、講演に登場したラプアンカンクリのヘルシンキ店内を実際に案内してくれる、オンラインならではの一幕もあった。

「インテリア・デザインに取り組む上で、最重視しているものは?」という質問に、小林さんたちからは、素材でも色でもなく「プラン(平面計画)です」という意外な答え。プランがうまくできれば、どんなアレンジでもできると言う。

かつて自然とともに暮らしてきたフィンランド人に元来備わり、現代生活の中で忘れかけていた感覚。常に新しいものを吸収することを忘れず、人々を幸せにする空間をめざし続けるimaだからこそ、その琴線に触れる空間を実現したのかもしれない。そして「空間は体験してはじめてわかるもの。自分のおもしろいと思うことを追求することが大切」とデザイナーをめざす若い世代にエールを送ってくれた。

文:高遠 遙
写真: ©Nacasa & Partners Inc.
     Photos except as noted by Design Office IMA.
※当サイトのテキスト・画像の無断転載・複製を固く禁じます。

主催:北欧建築・デザイン協会(SADI)
講師:小林恭 + 小林マナ(インテリア・デザイナー、設計事務所ima主宰)
日時:2020年8月26日(火)19:00~20:50(ZOOM入室18:30~)
会場:オンライン開催(オンラインビデオ会議システム「ZOOM」)
参加費:一般1,000円/学生500円/会員無料
定員:80名(先着順、8月6日以降事前申込み制)

講師プロフィール

講演会風景(小林恭 + 小林マナ)。

こばやし・たかし
兵庫県神戸市生まれ。1990年多摩美術大学美術学部インテリアデザイン科卒業後、カザッポ&アソシエイツ(Casappo & Associates)に入社。

こばやし・まな
東京都生まれ。1989年武蔵野美術大学造形学部工芸デザイン科卒業後、ディスプレイ・デザイン会社に入社。
「グッドデザイン賞」審査員(2019年、2020年)

インテリア・デザイナー、設計事務所ima主宰。
共に1997年退社後、建築、デザイン、アートの勉強のため半年間のヨーロッパ旅行で17カ国70都市を巡る。1998年帰国後、設計事務所ima(イマ)を共同で設立、共同主宰。

2006年よりフィンランドのファブリック・ブランド、Marimekko(マリメッコ)、イタリアのバッグと革製品ブランドIL BISONTE(イル ビゾンテ)の国内店舗の設計を担当。2010年よりMarimekkoの海外主要都市の旗艦店の設計を担当。2015年よりフィンランドのテキスタイル・ブランド、LAPUANKANKURIT(ラプアンカンクリ)の店舗設計を担当。ラプア店(2015年)、ヘルシンキ店(2019年)、表参道店(2020年)の設計を手がける。

現在は、物販店舗と飲食店舗のインテリア・デザインを主軸に、プロダクト・デザイン、住宅の新築やリノベーション(改修)、こども園園舎の内装、ホテルや展示会の会場構成なども手がけている。

設計事務所ima(イマ)HP
http://www.ima-ima.com/index.html

imaの事務所兼自宅の外観(2016年)。©Nacasa & Partners Inc.

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