【大会レポート】SDL: Re-2020「せんだいデザインリーグ2020 卒業設計日本一決定戦」代替企画
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部屋で、キャンプ場で、インターネットで
せんだいメディアテーク(以下、smt)を会場として全国から応募された卒業設計の日本一を決める「せんだいデザインリーグ2020 卒業設計日本一決定戦」(以下、SDL2020)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、直前の2020年2月28日に中止が決定された。同時に代替企画の実施を検討。その結果、2020年3月4日から応募を開始し、SDL2020の開催予定日だった2020年3月8日に、新たなイベント「SDL: Re-2020」が開催された。無観客での審査会は、YouTube LIVEを介してインターネット中継された。
(簡略開催をする学校はあったが)卒業式も入学式もなくなり、WHOがパンデミック宣言を発したのが2020年3月12日、全国の学校で休校措置が拡大され、「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく初の「緊急事態宣言」発令が4月7日である。
2020/03/07
混乱の中で……できることをしよう。
THE DAY 1: 2020/03/07
先行き不透明な新型コロナウイルスの影響下「SDL: Re-2020」の予選審査が2020年3月7日、smt(開催時点では非公開)で行なわれた。ギャラリー5室に審査員10人(小杉栄次郎、斎藤和哉、櫻井一弥、恒松良純、土岐文乃、友渕貴之、中田千彦、西澤高男、濱定史、福屋粧子)が2人1組で分かれ、手分けして審査。242作品を100作品に絞り込んだ。
smtでは当日、中止となったSDL2020の代替企画「SDL: Re-2020」開催にあたり入場人数を制限、関係者入場を規制管理し、取材に際しても名簿の提出を求められた。いろいろな規制があることは予想していたが、予選当日の朝「ちょっと、それは何?」と言いたくなる通達が突然発せられた。代替企画の運営を担う仙台建築都市学生会議(以下、学生会議)の学生スタッフを退出させたのである。取材班は会場に到着次第、最低限の引き継ぎをして学生スタッフたちと別れた。
「せんだいデザインリーグ 卒業設計日本一決定戦」はsmtと学生会議が2003年から開始した。これまで共に困難を乗り越えてきたのだが、今回の学生スタッフの退出騒動である。「感染者を出さない」という意識の徹底は理解できるが、主催者不在の「SDL: Re-2020」は考えられない。
共催者であるアドバイザリーボード(学生会議の活動をサポート)の小野田泰明が学生会議の所属する各学校に要請し、smtと協議した結果、翌日の本選(セミファイナル、ファイナル)には、最低限ではあるが、学生スタッフ13人の参加が認められた。
smtはその後、4月11日から6/11まで臨時休館になっていたが、取材当日に疑問を感じたsmtの新型コロナウイルス感染防止対策として、「全フロアの椅子およびテーブルの使用禁止」がある。1階ホールに並べられている椅子がすべて片づけられていた。いつも散歩途中の休憩に座るベンチを探していたのか、右往左往していた高齢者に対して、受付カウンターのスタッフが困惑の表情で対応していたのは、気の毒だった。
2020/03/07 学生スタッフは急ぎ書き置きを残し、アドバイザリーボードはスタッフT シャツを着用して審査
2020/03/08 西面非常口を開放して強制換気、メディアテークの配慮
結果を残すこと。100→20→11
THE DAY 2:
2020/03/08 AM
2日めの午前中はセミファイナル審査である。アメリカ合衆国との渡航リスクを鑑み、来日参加を見送った重松象平に代わり、永山祐子が審査員長代理を務めた。審査員とアドバイザリーボード(永山・五十嵐/金田・西澤/野老・中田/冨永・福屋)2人1組のセミファイナル審査員がギャラリー5室に分かれ、予選通過100作品を4分割して審査。4作品×5室=20作品(20選)を選んだ。
午後は4人の審査員による、インターネットを介したファイナルの中継審査。モニタ越しの出展者のプレゼンテーションと質疑応答を通して20選を審査し、上位10選(実際は11選)と各審査員賞を決定した。
永山祐子賞:『Omote-ura・表裏一体都市――都市分散型宿泊施設を介したウラから始まる「私たちの」再開発計画』
金田充弘賞:『嗅い――記憶の紡ぎ方を再起させる特別な感覚』
野老朝雄賞:『出雲に海苔あり塩あり――岩海苔と神塩の生産観光建築』
冨永美保賞:『TOKIWA計画――都市変化の建築化』
22020/03/08
お互いの想いを伝える場。日本一、日本二、日本三を決める。
11選と各審査員賞を決めて幕を閉じる予定だったが、総評の場で、永山祐子が「ここに応募された作品は、どれも日本一をめざして設計されたものである。すべては暫定かもしれないが前向きな姿勢を示したい」という意思を表明。即座に同様に感じていた他の審査員の賛同を得て、シンポジウムを予定していた時間を使って「SDL: Re-2020」の日本一、日本二、日本三を決めることになった。
最初に、各審査員が推薦する作品に2票ずつ投票。続いて、11選の出展者とのインターネット接続を継続して、出展者との質疑応答をもとに作品が審査された。協議の上、決定した各賞は、最初の得票数の通りとなった。以下は各賞と審査員から寄せられた講評。
日本一:『出雲に海苔あり塩あり――岩海苔と神塩の生産観光建築』
「美しい島根の風景をつくってほしい」「テオ・ヤンセンの造形を想像した」
日本二:『TOKIWA計画――都市変化の建築化』
「内向的で、社会性の不足を感じた」「都市のシステムを社会に開く新しいアプローチ」
日本三:『建築と遊具のあいだ』
「あそびの風景を子供たちとワークショップを通してつくり出す発想に感心」
入賞は逃したが、金田審査員から高く評価されていた『便乗する建築――和紙産業の作業工程を機能分解し地域資源として共用』の田所佑哉は、キャンプ場からSDLへの想いを語った。「自分は、高校生の時にSDL2014日本一の『でか山』を見て卒業設計をしたいと思い、大学に進学した。それが新型コロナの影響で中止になるという流れになって残念だが、『SDL: Re-2020』に参加できたことは満足だ」「卒業設計でいろいろなことを考えた、それらを将来、建築家になって実現したい」。
与えられた状況の中で新たな表現を
今回、オンラインによるリモート審査とライブ映像配信に組み替えることで実現した「SDL: Re-2020」を通して、改めていろいろな発見があったように思う。
オンライン審査であれば、出展物の搬送料がかからず遠隔地からの参加がしやすいため、出展数の増加が見込める。また、大観衆を目にしないため、学生は緊張せずにプレゼンテーションできた(わかりやすい説明になった)というメリットがあった。一方で、実際に会って対話をすることや、模型によって、いかに多くの情報が伝わっていたのかを確認することにもなった。
コロナ禍の下、しばらくは、リモートでの授業や社会的距離をとった生活が強いられるだろう。SDL2021も、通常通りの方式で開催できるかどうかは未定である。それでも、オンラインには、オンラインにふさわしい表現方法がある。学生たちには、今回の経験をもとに、オンラインの強みを生かした新たな表現方法を見出してほしい。そして、近い将来、我々に驚きを与え、新たな世界に導いてくれることを期待している。
文:フジタサトシ
Photos except as noted by the author.
『建築と遊具のあいだ』関口大樹[慶應義塾大学]
「せんだいデザインリーグ2020 卒業設計日本一決定戦」代替企画「SDL: Re-2020」
会場=せんだいメディアテーク5階ギャラリー
会期=3月7日[土]~8日[日]
3/7 予選
3/8 セミファイナル
ファイナル(公開審査)
日本一、日本二、日本三の選出(当初予定ではシンポジウム)
主催=仙台建築都市学生会議/仙台建築都市学生会議アドバイザリーボード
セミファイナル審査員=
永山 祐子[建築家]
金田 充弘[構造エンジニア]
野老 朝雄[美術家]
冨永 美保[建築家]
五十嵐 太郎[建築史家、アドバイザリーボード]
中田 千彦[建築家、アドバイザリーボード]
西澤 高男[建築家、アドバイザリーボード]
福屋 粧子[建築家、アドバイザリーボード]
ファイナル審査員=
永山 祐子[建築家]
金田 充弘[構造エンジニア]
野老 朝雄[美術家]
冨永 美保[建築家]
応募条件 | 建築系学校に在籍する学生の卒業設計。開催中止となった「せんだいデザインリーグ2020 卒業設計日本一決定戦」公式ウェブサイトでSTEP2登録をした登録者が対象。指定のファイル共有サービスにパネルとポートフォリオの電子データをアップロードして手続き完了となる。 |
出展作品数 | 242作品 |
審査方法 | 3/7の予選は、全242作品から、予選審査員による選出とディスカッションを経て、セミファイナル審査対象100作品(100選)を決定。 3/8のセミファイナルは、セミファイナル審査員により予選通過100作品から20作品(20選)を選出。 ファイナル(公開審査)では、インターネットを介した20作品のプレゼンテーションと質疑応答を通して、ファイナル審査員により、11作品(11選)を選出し、各審査員賞を決定。 その後、投票(各審査員が2票)と11選のプレゼンテーションと質疑応答をもとに、日本一、日本二、日本三、各1作品を選出。 ファイナル(公開審査)は、YouTube LIVEで同時配信。 |
YouTube LIVE |
受賞者
日本一 | 344 出雲に海苔あり塩あり 岩海苔と神塩の生産観光建築 岡野元哉(島根大学) |
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日本二 | 241 TOKIWA計画 都市変化の建築化 丹羽達也(東京大学) |
日本三 | 055 建築と遊具のあいだ 関口大樹 (慶應義塾大学) |
審査員賞
金田充弘賞 | 375 嗅い 記憶の紡ぎ方を再起させる特別な感覚 和出好華、稲坂まりな、内田鞠乃(早稲田大学) |
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野老朝雄賞 | 344 出雲に海苔あり塩あり 岩海苔と神塩の生産観光建築 岡野元哉(島根大学) |
冨永美保賞 | 241 TOKIWA計画 都市変化の建築化 丹羽達也(東京大学) |
永山祐子賞 | 195 Omote-ura・表裏一体都市 都市分散型宿泊施設を介したウラから始まる「私たちの」再開発計画 服部秀生(愛知工業大学) |
11選
003 | 住み継ぎ 西田静(東京大学) |
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013 | 言葉による連想ゲームを用いた設計手法の提案 寺島瑞季 (東京都市大学) |
018 | 便乗する建築 和紙産業の作業工程を機能分解し地域資源として共用 田所佑哉(九州産業大学) |
055 | 建築と遊具のあいだ 関口大樹 (慶應義塾大学) |
072 | 小さな環境 風景のリノベーションにおける用水と人の新たな関わり方 宮下幸大(金沢工業大学) |
170 | 転置する都市生活 百尺ビル再編による北船場らしい職住一体のあり方の提案 金沢美怜 (近畿大学) |
241 | TOKIWA計画 都市変化の建築化 丹羽達也(東京大学) |
344 | 出雲に海苔あり塩あり 岩海苔と神塩の生産観光建築 岡野元哉(島根大学) |
375 | 嗅い 記憶の紡ぎ方を再起させる特別な感覚 和出好華、稲坂まりな、内田鞠乃(早稲田大学) |
404 | 母は柔しく、父は剛く。そして子は鎹 諫早湾干拓堤防道路ミュージアム&ラボ 田口正法(熊本大学) |
450 | 風景へのシークエンス 八木耀聖(千葉大学) |
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